2021年9月、北海道苫小牧市の交差点で、白バイと衝突し警察官を死亡させた罪に問われた大型トラックの運転手の控訴審が17日開かれ、弁護側はあらためて無罪を主張し、検察側は控訴の棄却を求めました。
起訴状などによりますと、砂川市の無職、谷口訓(たにぐち・さとし)被告(56)は、2021年9月13日、苫小牧市柏原の道道の信号機のない丁字路交差点で、運転していた大型トラックで右折しようとした際、反対車線を直進してきた白バイと衝突。
白バイに乗っていた男性警察官(当時32)を死亡させた過失運転致死の罪に問われていました。
ことし8月、札幌地裁は「右折の開始時点で白バイが来ることを予見することは可能だった」として被告の過失を認定し、禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡していて、弁護側が判決を不服として控訴していました。
17日に札幌高裁で開かれた控訴審で、弁護側は「札幌地裁判決は、右折の0秒前にでも前方を確認して停まっていれば衝突を回避できたと指摘するが、仮に右折の1秒前に前方を確認したとしても、その時点で白バイの速度は時速92キロで、合法的な行動をしたとしても結果回避可能性はなかった」などと主張。
「被告は右折の数秒前に前方を確認していて、結果回避義務の履行としては十分」で、地裁判決には事実誤認や法令適用の誤りがあるとして無罪を主張しています。
一方検察側は控訴の棄却を求めています。
控訴審は即日結審し、判決は来年2月20日午前11時に言い渡されます。
【これまでの裁判の経緯】
この事故をめぐり、検察は、2022年3月、谷口被告を不起訴処分としましたが、検察審査会への申し立てを受けて再捜査した結果、2023年5月8日付けで在宅起訴していました。
これまでの公判で、被告側は「結果は重大だが、時速120キロという高速バイクの接近を予見し、回避することは不可能。サイレンは鳴ってないし、赤色灯もドラレコでははっきりと確認できない。右折の仕方には問題あったが、交通法規違反にとどまり、道交法違反の刑事罰は無関係。被告に過失はない」として、無罪を主張。
これに対し検察は「当時、白バイは警ら中で、赤色灯を点灯させながら118キロで走行していたが、トラックを見つけて88キロまで減速した。
サイレンを鳴らさず、118キロ出していたのは、違反車両に存在を察知させないためとも言えて、違法性はなく、責められることもない。
被告の『見えた』という表現は信用できず、右折先の反対車線に停止していた車両の“内側”を進行しようとして安全確認を怠り、事故が起きた。刑事責任は重い」として、禁錮1年2か月を求刑。
一方、公判では、北海道警察が事故防止に向けて、白バイに「最高速度を100キロ」とするよう通達していたことも判明しましたが、検察は、通達を18キロも超える速度で走行するほどの緊急性が白バイにあったのかなどは、説明していませんでした。
こうして迎えた8月29日の判決公判で、札幌地裁の吉戒純一裁判長は、下記のように指摘した上で「白バイが高速度だったことが重大な結果に及んだことも否定できないが、被告の刑事責任は軽くない」などとして、禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。
■一審判決理由
・右折の開始時、車両の有無と車両間の距離を確認すべきで、予見は可能だったし、予見義務もあり
・白バイが高速度で来ていたとしても、直ちに予見可能性から否定されるまでもない
・事故後と公判供述の変遷などから「跨線橋のところに“影”が見えた」は信憑性が高くない
・右折の確認は6秒も前で、意識的に確認していたとは言い難く、注意義務を果たしたとは言い難い
・白バイは高速度で走行していたが、警官の職務に従事中で、さしたる過失はない
・被害結果は重大で、家族の喪失感も深く、処罰感情が重いのも理解できる
・白バイが高速度だったことが重大な結果に及んだことも否定できないが、被告の刑事責任は軽くない
なお、これまでの公判で、事故現場に唯一、居合わせた乗用車の男性の証言、被告人質問などは、下記のようになっています。
■事故現場に乗用車で居合わせた男性の証言
・白バイの赤色灯は点いていたが、サイレンの音は聞いていない
・ドライブレコーダーでは、トラックがウィンカーを点けてたようだが(自分は)見えなかった
・トラックは、真っ直ぐ行くだろうと思った
・太陽がトラックの背にあり、白バイを照らしていた
・衝突の瞬間は見ておらず「バチャーン」という音で気づいた
・トラック運転手は事故直後「白バイを全く確認できていなかった」と自分に話した
■谷口被告への被告人質問
<弁護人とのやりとり>
・直進の車両を2~3回、確認する中で、遠くに自転車やバイクのような“影”が見えただけ
・あの距離なら曲がれると思って、右折した
・(白バイと認識は?)ありません
・(赤色灯は?)見えません
・(サイレンは?)聞こえません
・事故直後、気が動転していて、警察に「白バイに気づいてなかった」と話した
・帰宅して落ち着いたら、遠くに見えていたことを思い出したので、証言を変えた
・検察からは「見えなかったんだろ?見えた、見えないは、どうでもいい」などとまくし立てられたが「最初は見えた」と話した
・事故直後の状況は、はっきりとは覚えていない
・あの日は仕事で、苫小牧市から雨竜町に向かっていた
・週に1回ほど通る道、時速60キロほどで走行し、右折時は40キロほど
・右折先の乗用車が停止線から出ていて、曲がり切れなさそうだと思い、やむなく内回りしたが、不適切だった
<検察とのやりとり>
・(影を確認してから、どれくらい?)4~5秒あった
・(影を見てから、ずっと影を見続けた?)ずっと見ていたわけではない
・(影が見えた場所は?)橋があって、カーブがあったところの先
・(対向車の速度は?)わからない
・(対向車との距離は?)わからない
・(実況見分で、白バイが2回見えた旨の説明した?)覚えていない
・(先に曲がろうとしたのは、なぜ?)影が見えて、あの距離なら曲がれるだろうと思った
<裁判長とのやりとり>
・(影のようなものは、どのように確認?)パッと見ではなく、正面を見て
・(ハンドル切る直前の確認は?)記憶がないです…
判決を受けて、谷口被告の弁護人は8月30日付で判決を不服として札幌高裁に控訴しました。