海外からの観光客で賑わう北海道ですが、ビジネスでも注目が集まっています。北海道を「隠れた宝石が眠る土地」と語る中東の財閥が行った道内の視察に密着し、海外で評価が高まる現場を取材しました。
札幌市からタクシーに乗って、新ひだか町にやってきたのは、中東のビジネスマンです。
トレードマークは、長ーい髭。
UAE(アラブ首長国連邦)のカヌーグループ財閥で、新規ビジネスを担当する、マフムード・ミアンさんです。
この日、訪れたのは、世界各国のレースに出場する競走馬を育てている牧場です。
◆中東の財閥が発掘する「北海道ブランド」
・UAE カヌー財閥 マフムード・ミアンさん
「競走馬はUAEだけでなく、アラブ諸国全体で人気が高い。ドバイのワールドカップは、賞金が最も高い世界的なレースで、過去には、北海道で育った馬が優勝した」
ドバイのレースに出場した馬に近寄ると…長い髭が馬に食べられそうに。
・UAE カヌー財閥 マフムード・ミアンさん
「これ(髭)は干し草じゃないですよ!」
ミアンさんが、北海道を訪れたのは、馬に会うためだけではありません。中東では、まだ知られていない「北海道ブランド」を発掘するのが、この日の目的。訪れたのは、冬から春に生産されている冬いちごのビニールハウスです。
・UAE カヌー財閥 マフムード・ミアンさん
「受粉はどうしてますか?」
・うらかわ菅農園 菅正輝代表
「受粉はミツバチです」
◆見えて来た中東への販路
ミアンさんはなぜ、食にこだわるのか?
・UAE カヌー財閥 マフムード・ミアンさん
「UAEでは約9割の食べ物を海外から輸入している。日本の商品に求める品質は中東では高い。(北海道の食には)大きな可能性がある」
その日の夜、新ひだか町にある、地元産の野菜や果物を食材に使うレストラン「お料理 あま屋」のシェフと、遅くまで商談が交わされました。
・UAE カヌー財閥 マフムード・ミアンさん
「ドバイでのビジネスの支援や投資など、私たちにできることがあればうれしい」
・お料理 あま屋 天野洋海代表
「よろしくお願いします」
海外への進出を狙っていたシェフにとって、中東への販路が見えてきた夜になりました。
・お料理 あま屋 天野洋海代表
「きょうの話の中でも『本物を出してほしい』と。『(北海道の)いいものを持ってきてほしい』。非常にすごくチャンスだと感じています」
◆原油産出国が再生可能エネルギーに関心を持つ理由
次の日、ミアンさんがやってきたのは、石狩湾の洋上風力発電です。
・UAE カヌー財閥 マフムード・ミアンさん
「(寒くて)耳の感覚がなくなってきたよ」
将来、日本国内で再生可能エネルギーの3分の1を担うとされ、GX(=グリーントランスフォーメーション)で「特区」にも指定された自然エネルギー発電の最前線です。
・UAE カヌー財閥 マフムード・ミアンさん
「すばらしいチャンス。脱炭素のために、日本の再生可能エネルギー分野への投資は、最も安全で信頼がおける」
原油産出国のUAEが、なぜ、いまクリーンエネルギーに関心を持つのか。
・中東調査会 高橋雅英 主任研究員
「UAEは中東の中で、脱炭素政策をけん引する国となっている。クリーンエネルギー分野でUAEがプレゼンスを高めていくのだということで『COP28』の議長国を務めた。脱炭素の流れというのは、世界的な潮流になっていて、産油国としても、対策を迫られている」
脱・化石燃料に舵を切ったUAEは、いま、新しい技術革新による新規ビジネスを立ち上げようとしているのです。その「原石」を探すのが、今回の訪問の大きな目的。
・UAE カヌー財閥 マフムード・ミアンさん
「湾岸諸国から見ると北海道は、“隠れた宝石”が眠っている場所なんです。食の安全保障に悩むUAEの問題を解決できないか、考えています」
◆「無菌」の人工土壌にも熱視線
砂漠地帯が広いUAEは、食料自給率が約20%。水も貴重な土地で、食料の栽培ができないか。北海道大学の視察で、その課題を解決するかもしれない、ある「特許」に出会いました。それは、スタートアップ企業が発明した「無菌」の人工土壌。
野菜や根菜類も屋内のプランターで育てることができ、小バエも発生しないため、殺虫剤も不要。「土」ではないので輸出の検疫も問題ない、といいます。
・UAE カヌー財閥 マフムード・ミアンさん
「あのように根菜類が育つのを見たことがない。(UAEは)水がなく砂漠が多い地域なので、食の安全保障の観点を考えると、とても関心を引かれた」
脱炭素に向けた世界的な流れの中で、中東と北海道をつなぐビジネスは、いま急速に発展しつつあります。
中東調査会の高橋雅英主任研究員によると、「UAEは元々、乾燥地帯で、耕作できる農地も少なく、水資源も限られている。近年、人口が増えてきたため、最先端の農業技術に関心を持ち、いまアグリビジネスが成長している」と話しています。