2024年、北海道旭川市と江別市で、若者らによる凶悪な事件が起きました。事件の背景に何があり、若者たちに何が起きているのかを取材しました。
冷たい風が吹きつける12月のある日。
札幌の中心部を忙しく行き交う人々に目を光らせる3人の姿がありました。
北海道警察の少年サポートセンターの少年育成専門官です。
・少年育成専門官
「こんにちは」
少年の不良行為を補導し、他の非行や犯罪に陥るのを未然に防ぐ『街頭補導』を行います。専門官らはタバコを吸っている少年を見つけると、喫煙をやめさせて事情を聞きました。
午後9時すぎ、私たちは16歳の少年2人に出会いました。週に3回ほど、札幌の中心部を訪れて知人ら数人で過ごすと言います。
・記者
「どういう仲間なの?」
・少年(16)
「街で知り合った。地下歩行空間で勝手に知り合った。勝手に話してて知り合うみたいな」
・記者
「みんなで何するの?」
・少年(16)
「話したり服見たり、ごはん食べに行ったり。安心はする。人数いるし、友達いないこともないなって」
このうち1人の少年は、10月に江別市で起きた事件で逮捕された18歳の男の友人でした。
トラブルになった相手に暴力をふるうという話を、日頃から耳にしたと言います。
・少年(16)
「(逮捕された18歳の男は)殴ったり蹴ったりする奴。けんかがシンプルに好き」
この事件で、強盗致死で起訴されたのは、被害者の交際相手だった八木原亜麻被告(20)と友人の川村葉音被告(20)。
そして16歳から18歳の少年ら4人も家庭裁判所に送致されました。
少年ら4人は、川村被告の交際相手とその友人らで、被害者と面識のなかった人物も複数いるとみられています。
4月には旭川市で女子高校生が橋から川に落とされ、殺害された事件がありました。内田梨瑚被告(22)と犯行時19歳の女、16歳の男女2人を含む4人が逮捕されました。事件の発端は、SNSをめぐるトラブルでした。
犯罪社会学の専門家は、2つの事件の犯行グループに年齢のばらつきがある点から、緩いつながりを持った「あいまいな関係性」があったのではと推測します。
・摂南大学 犯罪社会学 竹中祐二准教授
「(グループの)関係性が希薄、あるいは弱いからこそ『自分が離れたら何かされるのではないか』という不安感」
「ふだんの学校であったり家族であったり、そこに居場所が無くて今回のメンバーとの関わりが数限られたつながり。ほかとの関係がそこしかない。ある種の強迫観念が『同調』というものにつながったのではないか」
SNSを中心に、コミュニケーションが変化する中、人間関係の築き方にも影響を与えている一面があると指摘します。
・摂南大学 犯罪社会学 竹中祐二准教授
「地域の中での異年齢集団と遊ぶ機会が少ない。他者と関わって衝突をして人との付き合い方を学ぶ、広い意味での学習の機会というのは乏しくなっている」
江別市の事件で逮捕された18歳の男の友人は、事件について…。
・少年(16)
「しょうもないことで人を殺すんだなって思った」
・記者
「自分たちがあの場にいたら?」
・少年(16)
「見てるかな。警察に通報しない。友達捕まるから。それは嫌でしょ」
・少年(16)
「逃げると思います。関わりたくない。自分もそんなんで捕まりたくない」
一方、旭川市の殺人事件。
起訴された犯行時19歳の女の弁護人によると、女は内田被告に「舎弟」と呼ばれ、逆らえない関係だったということです。また、女は事件を起こすような人物には見えないと話します。
女が弁護人に宛てた手紙
「リコさん(内田被告)の事を止めていればこのような事にはならず、被害者の子は今頃生きていて普通に暮らしていたかもしれない。でもリコさんと私は結果、亡くならせてしまったんです」
「本当に後悔でしかなく、当時に戻れるなら、私の命にかえてでも、被害者の子を助けてあげたいです。何回も当時に戻りたいと思いました」
道内で摘発や補導を受けた非行少年は増加しています。
不良行為も前の年と同じ時期と比べて915人増え、喫煙が半数を占めます。
こういった不良行為をきっかけに少年犯罪へと繋がっていくケースも少なくないと言います。
・道警本部生活安全部少年課 千島孝洋 少年サポートセンター所長
「少年非行の背景には、家庭環境、学校生活、友人関係に悩みを抱えているケースが多い。
・道警本部生活安全部少年課 千島孝洋 少年サポートセンター所長
「少年サポートセンターでは、少年が抱えるさまざまな課題に対して、専門的な知識を持つ職員が保護者を交えて、解決に向けて必要な助言や指導を行っている」
旭川市の高校教諭で、いじめ問題に取り組むNPOの代表も務める岩岡勝人さんです。
学校生活に悩む子どもや、少年非行でトラブルを抱えた子どもたちを目の当たりにして来ました。
岩岡さんは、「子どもは大人の社会で起きていることを真似する写し鏡だ」と言います。
・NPO法人 学校の底力 岩岡勝人理事長
「なるべく失敗しないような社会になっている。失敗が許されない。だからやらない。そういう社会からでは子どもたちの中でも、リアルの中での切磋琢磨が無くなっている」
閉鎖的な関係性に陥りがちな若者たちに、社会との接点を持たせるのが大切だと指摘します。
・NPO法人 学校の底力 岩岡勝人理事長
「大人と言われている全員が、全員の子どもたちに関心を持っていただきたい。愛情の反対は無関心っていう言葉があるとおり、社会全体が政治も含めて子どもたちに無関心」
子どもと真剣に向き合う大人の姿と居場所づくりが、非行や犯罪を防ぐいつかの助けになるかもしれません。
取材した摂南大学 竹中祐二准教授によりますと、近年では逆境的小児期体験という研究が注目されています。
◆逆境的小児期体験(摂南大学 竹中祐二准教授)
子ども時代に虐待を受けると生きづらさを感じてしまい、非行や犯罪をしたり、大人になって自分の子どもに虐待をするなどの傾向がみられる。
・堀啓知キャスター
若者たちが非行や犯罪に向かわないように、どのような社会を作って行けばいいのか、私たち大人たちが問われているような気がします。