特集は、社会を震撼させた凶悪な少年犯罪のその後です。
北海道内でも2024年、凶悪な少年犯罪が相次ぎましたが、裁判が確定し刑務所を出所した加害者のその後はほとんど報じられません。ある事件を通し、加害者の更生を考えます。(取材構成:HBC報道部 山﨑裕侍)
2024年、北海道内で相次いだ若者たちによる凶悪事件。
「女子高生コンクリート詰め殺人事件」(1989年)は凶悪な少年犯罪の原点といわれている。
山﨑裕侍記者
「被害者の遺体が遺棄された現場の目の前には菩薩像が置かれていて、今でも被害者を供養するために花束やドリンクを手向ける人が多いということです」
準主犯格Bの義兄
「自分の悪行を洗い流したいんだと」
加害者の知られざる「その後」を追い、更生のあり方について考える。
準主犯格Bの義兄
「よろしくお願いいたします」
HBC北海道放送の東京支社に現れたひとりの男性。ある人物について証言を始めた。
準主犯格Bの義兄
「こんな言い方したら変だが、薄気味悪い。嫌な印象しかなかった」
記者
「刑務所に入っていたことは?」
準主犯格Bの義兄
「知っていた」
その人物は、刑務所から出てきたばかりだった。
女子高生コンクリート詰め殺人事件。
1989年3月、東京都江東区の埋め立て地で、埼玉県に住む当時17歳の女子高生が無残な姿で発見された。
裁判で実刑判決を受けたのは、当時16歳から18歳の少年4人。
少年たちは見ず知らずの女子高生を連れ去り、足立区綾瀬のCの自宅に、40日間にもわたり監禁し、強姦や暴行を繰り返し殺害した。
準主犯格のBは、1999年に刑務所を出所。私たちの取材に応じた男性は、Bの義理の兄だ。
準主犯格Bの義兄
「出所後は人生1から、ローンもたくさん組める。自分のやりたいことはすべてできる。高級車をローンで買った。目に余るぐらいの、やりすぎじゃないかなという生活を始めた」
Bは出所してから、コンピューター関係の仕事に就いたが、数年でやめてしまう。
そして2004年、Bは知人の男性を監禁し、けがをさせる事件を起こし、懲役4年の実刑判決を受ける。
山崎裕侍記者
「私は当時東京拘置所に勾留されていた男と面会し、手紙のやりとりもしました。反省の言葉は少なく、事件を起こした理由について、ある女性のことについて聞きたかったからだと主張しました」
手紙でBは、自分が好意を寄せていた女性を被害者らが横取りしたと主張した。だがそれはBの思い込みだった。
前の事件での10年間におよぶ獄中生活で、Bには拘禁反応による妄想が現れていた。
準主犯格Bの義兄
「シャワーを浴びてる。何時間も何十時間も。"自分の悪行を洗い流したい"と。おかしい。下の階の人のところに行って『ここは俺のうちだから出て行け』『俺の周りにいるやつは敵だ』『壁から手が出てきて、襲ってくる』」
満期で刑務所を出たBは、仮出所者に行われる生活や医療などの公的なサポートは得られなかった。
準主犯格Bの弁護人 伊藤芳朗弁護士
「正直、申し訳ない」
出所後、母親と一緒に暮らすものの、コンクリ詰め事件を起こした当時のゆがんだ親子関係のままだったと担当の弁護士は語る。
準主犯格Bの弁護人 伊藤芳朗弁護士
「彼が母親と良好な関係になれば、かなりの部分は解決できると思っていた。そういったところ(親子関係)に関わることができなかった。周りの社会資源を活用しながら、旗を振ることもできたのではと反省」
Bは府中刑務所に4年間服役し、2009年に満期で出所。埼玉県内のアパートで生活保護を受けながら一人暮らしをしていた。
仕事はせず、ほとんど引きこもりの状態だったという。
準主犯格Bの義兄
「弁当を母親が作って持って行って、そこに薬を混ぜて食べさせていた。生活保護費が入ると、全部タバコ買って吸ってしまう生活を続けていた」
その死は、孤独なものだった。
知人の女性
「事故で亡くなりました。自宅のトイレで倒れて、便器とタンクの間に頭が挟まって抜けられなくなったようです。薬を飲んでふらついたのでしょう。死に顔は穏やかでした」
Bの死からどんな教訓を引き出せるのか…。
立命館大学法学部(犯罪学) 森久智江教授
「出所後、家族がサポートの主体になる状況には非常に限界がある。妄想で困難を抱えている人は人間関係がうまくいかなくなることもしばしばある。社会的に孤立した状態に置かないということが非常に重要」
Bは今、樹木の下で眠る。51歳だった。
※スタジオ部分、切り出していません。
堀啓知キャスター)
被害者の立場を考えると、加害者には少しでも重い刑罰を与えてほしいと思うのは当然ですが、ただ厳罰にするだけでは解決しないこともあります。
森田絹子キャスター)
刑務所は刑を科す場所ではありますが、受刑者の更生につながっていないとして、今年6月から、日本の刑が大きく変わります。
具体的にはこれまでの懲役刑や禁固刑を排しして「拘禁刑」というものを新たに設けて、受刑者に自分自身や事件を顧みさせて、社会復帰後も再犯しないようコミュニケーション能力などを身に着けさせるものに変わります。
堀キャスター)
本人や家族の努力だけでなく、社会の支援が必要ですね。
事件があると内容に着目ばかりしがちですが、なぜ犯罪が起きたのか、被害者支援や加害者の処遇はどうあるべきかを常に考えなければならない…。