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「どんな時でもあきらめない心」を教えてくれた 五輪という特別な舞台…石川佳純特別コラム「エースの思い」

スポーツ報知 2024年7月28日 8時0分

 パリ五輪は27日に本格的に競技が始まった。スポーツ報知特別コラムニストを務める、卓球女子で3大会連続メダリストの石川佳純さん(31)が自身にとっての五輪を語り、選手全員が悔いなく力を出し切れることを願った。フジテレビのスペシャルキャスターでもある石川さんは大会期間中、現地で精力的に取材。昨年に現役を引退し、初めて外から見る五輪で感じた思いを「エースの思い」として随時掲載する。

 私にとって五輪は自分の人生が変わった本当に大きな存在で、特別な舞台です。目標に向かって頑張り続けること。どんな時でも諦めない心。五輪を通して多くのことを学びました。

 初めて出場した12年ロンドン大会は、一番楽しかった五輪です。全てが新しい挑戦。もちろん緊張はしましたが、先輩についていって伸び伸びとプレーでき、それが自分の強さにもなりました。女子団体の準決勝で勝ってメダルが確定した時には、信じられないぐらいの喜びがありました。

 16年リオ大会は苦しかった五輪です。自分自身もシングルスでメダルが狙えると自信があった中で初戦で負けて、卓球人生で初めての挫折を味わいました。今では力不足だったなと思いますが、初めてがここじゃなくてもいいのに…と悔いが残る結果でした。それでも悔しい気持ちを引きずって、団体戦でもメダルを逃せば一生後悔する。自分は絶対に負けないという思いで気持ちを切り替え、村上(恭和)監督も「佳純が2点取るから大丈夫」と言ってくれた。信じてくれたことに感謝したいですし、それに応えて、全勝できた自分を少しだけ褒めたいと思います。

 21年東京大会は新型コロナの影響で1年延期になって、さまざまなことが異空間のように感じられました。開幕までは長かったですが、試合が始まればあっという間。開催されたことに感謝し、あらためてスポーツや卓球ができる喜びを感じた大会にもなりました。開会式の選手宣誓も特別な時間でした。無観客でしたが、世界中で何億人もの方が見ている。自国開催の開会式で日本代表として選手宣誓ができたことは、一生忘れません。

 3度出場する中で若手からキャプテンに立場が変わりました。最初は先輩についていったところから、自分が最年長になって引っ張っていくという意識が芽生えたのは、9年間での大きな変化です。ただ、変わらず感じていたのは、その舞台に立つのがどれだけ難しいかということでした。

 目標が大きくなればなるほど、一人でたどり着くことはできません。つらい時やどんな時も、周りの支えがないと踏ん張れない。周りの助けがあってこそ、あの舞台で戦うことができ、強くなれる。それは自分自身、長く競技をやっていく中で感じたことです。その気持ちは選手を引退した今も、持ち続けています。

 パリ五輪は選手ではなく、キャスターという立場で迎えます。選手としても人間としても大きく成長させてもらった五輪の舞台に、また関われることはすごくうれしいことです。初めての挑戦で不安はありますが、ワクワクもしています。

 大会前にはいろんな競技の選手にインタビューをさせてもらう機会があり、選手から直接、調子や競技の魅力、得意技などを教えてもらったことで、パリ五輪を見るのがすごく楽しみになりました。選手にとって本番直前は忙しく、精神的にも余裕がない時期。そんな時に話を聞かせてもらえたことは、とても貴重な時間でした。自分なりに感じたこと、その選手が一生懸命やってきた思いをしっかり学び、伝えていきたいと思います。

 選手の皆さんから共通して感じたのは、五輪に出るための覚悟です。厳しい予選の中で自分が絶対に出るんだという覚悟や思いは競技を問わず、一緒なんだなと再確認しました。それぞれが人生を懸けてやってきた競技の最高峰の舞台。今まで努力してきた時間を信じて、悔いなくけがなく、自分の力を十分に発揮できるように頑張ってほしいです。

 卓球の代表6人は本当に厳しい選考レースを勝ち抜いた選手たち。どの種目も期待できますし、女子の早田選手や平野選手、伸び盛りの張本美選手は中国選手に何度か勝っています。中国の壁はまだまだ大きいですが、10回試合をして、1回勝てる試合が五輪であればいい。10回中10回勝つことは正直難しいかもしれませんが、その1回を勝つチャンスは以前より大きくなっていると思います。そこを自信に試合に臨んでもらいたいです。

 スポーツ報知の読者の皆さんには、このコラムを通して、一緒にパリで試合を観戦しているかのように楽しんで読んでいただければと思っています。

 ◆石川さんの五輪3大会 12年ロンドンは女子団体に出場。シンガポールとの準決勝で単複ともに白星を挙げ、日本卓球史上初のメダルとなる銀。16年リオはシングルス初戦(3回戦)で右ふくらはぎがつるアクシデントで治療を求めたが認められず、キム・ソンイ(北朝鮮)にフルゲームで逆転負け。団体は5戦全勝で銅メダルに貢献した。21年東京は日本選手団の副主将も務め、シングルスが5位。団体で銀メダルを獲得した。

 ◆石川 佳純(いしかわ・かすみ)1993年2月23日、山口市生まれ。31歳。7歳で本格的に卓球を始め、世界選手権は2007年大会の女子ダブルス、混合ダブルスで初代表。17年大会混合ダブルスで金メダル。五輪は12年ロンドンから3大会連続で女子団体のメダル獲得に貢献。全日本選手権は5度優勝。世界ランク自己最高は3位。23年5月に現役を引退。左利き。家族は両親と妹。パリ五輪ではフジ系中継のスペシャルキャスターを務める。

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