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体操金の谷川航 骨折でも「乗り越えられたら強くなっちゃう」思考で大逆転を呼ぶ込む弟・翔手記…パリ五輪

スポーツ報知 2024年7月30日 10時0分

◆パリ五輪 第4日 ▽体操男子 団体決勝(29日、ベルシー・アリーナ)

 体操男子の団体で2大会ぶりの金メダル獲得に貢献した谷川航の弟・谷川翔(25)=セントラルスポーツ=がスポーツ報知に手記を寄せた。大逆転金メダルを引き寄せた兄は、昔から逆境や困難には逃げず、立ち向かう男だった。

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 僕にとって航は、とても一言では表現仕切れない存在。幼少期から習い事も学校もずっと同じ。兄であり、仲間であり、ライバルでもあった。体操選手の中で一人“推し”を選ぶとしたら、真っ先に浮かぶのはお兄ちゃん。小学生は「俺ら、ケンカしてる暇もなかったよな」と言えるくらい毎日一緒に練習した。

 練習中、よく話すのもお兄ちゃん。僕が苦手な跳馬を練習している時は、いつも視線を感じる。お兄ちゃんに監視されてるみたいな。どこからでも跳躍を見てくれていて、遠くからでも「足の振り上げ勢いよく」など手を動かしてアドバイスをくれる。時には「この演技、良かった」とほめてもくれる。兄の言葉は、自信につながっている。

 実家の目の前に、50メートル弱の坂がある。初めて見る人は必ず「うっわ!」と驚くような急な坂だ。お兄ちゃんはその坂を走って登り、ジュニアの頃は練習後、自転車で毎日その坂を駆け上がっていた。一方の僕は、母に自転車を持ってもらい、歩いていた(笑い)。多分、挑戦したが、僕の脚力では駆け上がれなかったんだと思う。お兄ちゃんの武器であるパワーは、おそらく毎日のこの積み重ね。今思うと、小さい時から他の選手とパワーは格段に違っていた。

 2月下旬、一緒に出場した種目別W杯(エジプト)で航は右膝を骨折。4月の五輪代表選考会を兼ねた全日本までもう2か月を切っていた。直後の航は「まじか、いけるかな」と先が見えない様子だった。ホテルが同部屋で、その日の会話は自然と膝の話になった。僕の心配をよそに、航は「俺、これ乗り越えたらまた強くなっちゃうよ」と言った。同じ選手として、この窮地でその考えができるのは「すげえな」と思った。

 僕は今回、五輪には届かなかった。懸けて来た分、最初は全てを失った感じがした。悔しかったが、体操を辞める選択肢はなかった。28年ロス五輪に出て「あの経験があったから」と思えるようにしたい。

 その中でも成長を実感した部分もある。これまで自分は、6種目の個人総合だけで代表入りを考えてきたが、今は特に平行棒、あん馬、鉄棒、床運動と、各種目で、技術や質が上がり、貢献度でも代表を狙える力がついてきたと実感がある。

 今回は、選考会一発目の全日本予選で、得意なあん馬で失敗。何か足りなかったのかなと感じているが、やってきたことが間違っていたわけではない。次に向け、まだその答えは見つかっていないが、考えながら次に向かっていきたい。「1回落ちてからの自分は強い」。信じて、ここからまた駆け上がっていきたい。

 そしてメダルを取ったお兄ちゃんに「おごって!」と言いたい。僕がおごるのではなく(笑い)。次の五輪までご飯をおごってもらい、4年後へと積み上げて行きたい。お兄ちゃんのようにプラス思考で、この先も一緒に高め合っていきたいなと思う。

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