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【特集・未来アスリート】世界大学ゴルフ選手権に出場する立命大・河上宮甫子 学生女王とプロテスト合格を誓う

スポーツ報知 2024年7月30日 17時6分

 立命大ゴルフ部の河上宮甫子(みほこ・法学部3年)が国際大会をステップにし、インカレ初制覇を目指す。8月27日からフィンランドで行われる世界大学ゴルフ選手権に女子日本代表の一員として出場。過密日程の今夏を乗り越え、学業との両立を図りながら学生女王の座とプロテスト合格の夢を追う。

 今年の流れを北欧で断ち切りたい。本格的にゴルフを始めてから日の丸を背負うのも、海外に遠征するのも初めて。「一番の成績を残せた昨年の自分を超えたいと思っていたのに、これまでがよくなくて…。一度は行って見たかった北欧(の大会)でうまくリセットしたい」。夏でも涼しく、自然と歴史があふれる美しい国で、今年の新たなスタートラインに立つつもりだ。

 世界大学ゴルフ選手権は2年に一度開催され、男子、女子3人ずつでチームを編成し、各日上位2人の合計スコアをチームスコアとし、4日間72ホール、ストロークプレーの合計スコアで争われる。昨年の日本学生ゴルフ連盟主催、後援競技の上位ポイントでメンバーが選出され、立命大の女子では2008年の全国女子大学ゴルフ対抗戦で初優勝し、最優秀選手に選ばれて出場した園田絵里子以来16年ぶり。一昨年はイタリアで行われ、日本の男子は団体で優勝し、女子は3位に入賞している。

 河上は昨年、出身地の北海道女子アマチュアゴルフ選手権でプレーオフの末、念願の初優勝を果たした。「この試合で優勝すると書き初めにも書いていて、絶対に勝ちたいと思っていた」と振り返る通り、6回目の挑戦でつかんだ栄冠だった。女子アマ界最高峰の日本女子アマチュアゴルフ選手権競技にも3年連続で出場。JLPGA(日本女子プロゴルフ協会)ツアーや、ステップ・アップ・ツアーにも名を連ねて経験を積んだ。だが、連覇を狙った今年5月の北海道女子アマでは6位。「結構ショックを受けた」と振り返るが、今は切り替えて8月以降の戦いに目を向けている。

 ゴルフを始めたのは千歳小3年の時。父・史郎さんに連れられて練習場に出掛けた。そこでたまたまゴルフ教室のチラシが掲示されていて、佐々木紀幸プロのレッスンを週に2回、受けるようになった。水曜と土曜、授業が終わると自宅に同プロが車で迎えに来てくれて、すぐにコースにも出た。1学年上で同郷の宮沢美咲プロ、今年ステップ・アップ・ツアーで優勝した永嶋花音プロ、3歳下の妹・公充子さんも同門。「当時はあまり楽しくなくて。でもゴルフをやめると父に負けたことになるので…」と、負けず嫌いな性格を明かす。初めて大会に出場したのは小学4年の時だった。「スコアははっきり覚えていて、119でした」。6年になると北海道ジュニアゴルフ選手権で3位に入り、全国小学生ゴルフ大会にも出場。初めて全国の舞台に立てたことが、小学生時代の一番の思い出だ。

 当時からまずスイングを固めようと、自宅では素振りを欠かさなかった。千歳中に進んだ2年の時、北海道高校ゴルフ新人大会中学生の部で優勝。「1回も勝ったことがなかったので、これを機会にもっと頑張ろうと思った」。ちょうどこの大会で関係者の目に留まり、クラブなどを提供してもらえるモニター契約選手になったことも励みになった。翌年には北海道ジュニアゴルフ選手権を制するなど2勝をマーク。「面白くなって来て手応えというか、自信を感じた」と回想する。地元では11月から3月まで雪のためコースに出ることはできない。毎日、スイングのフォームを撮影した動画を送り、佐々木プロからアドバイスが届く。助言を求める相手が、幼い頃からクセを知る父になることもあるが、練習を休むのがストレスで、今もその繰り返しだという。

 よりゴルフに集中できる環境を求めて立命館慶祥へ進学。だが、2年になるとコロナ禍で大会がすべて中止になり、おぼろげに抱いていたプロの夢が破れそうになった。「大スランプになり(ゴルフが)嫌になって、(プロが)現実的な夢と思えなくなった。大学に入ったらゴルフはやめよう…」。そう思い悩んだ日々を経て、心に光が差し込んだのは3年になった21年6月、北海道高校ゴルフ選手権での優勝だ。「スコアが出るようになった」ことをきっかけに、8月の「ゴルフダイジェストジャパン ジュニアカップ」初日にベストスコアを2打更新する68をマーク。「全国の大会でアンダーで回ってこれた」と、前向きになれたことで心は吹っ切れた。

 「プロはとりあえず置いといて、大学日本一になるまでゴルフをやめるのは、やめよう」。そう決断して立命大へ。初めてゴルフ部の一員となった。月、火曜は部活。水曜から金曜までが自主練習で衣笠キャンパスから近い練習場などで打ち込む。「2時間、考えながら100球だけの時もあれば、300球打つ時も」。営業終了後の球拾いや、週末は琵琶湖カントリー倶楽部でキャディのアルバイトをして、その後ラウンド練習する。ジムは週に1、2回。「体幹と足腰を鍛える」ことで入学後、飛距離は20ヤード伸びて今は230〜240ヤード飛ぶ。ピッチングウェッジが得意で「スコアを落とさないため、(パー)オン率を一番大事にしている」と力を込める。昨夏の平均スコアは71。60台は一度しかなかった。「安定はしているけどビッグスコアが出ない」と、不足がちな爆発力を追い求めている。

 一番の転機が訪れたのは昨年4月だった。キャディのアルバイトをする琵琶湖カントリー倶楽部で行われたJLPGAのステップ・アップ・ツアー「ヤンマーハナサカ  レディースゴルフトーナメント」に初めて出場。同倶楽部から「1人(出場選手)枠が空いたよ」と、声を掛けられた。「予選落ちしてプロとの差を痛感したけど、今までで一番楽しくて。ギャラリーの雰囲気も素晴らしくて、ずっとこの場にいたいと思った。迷いはなかった。絶対プロになる!」。この経験が2か月後の北海道女子アマのVにつながった。レギュラーツアー「ミネベアミツミレディス 北海道新聞カップ」「北海道meijiカップ」の2試合にも出場。「空気感がステップ・アップ・ツアーとまるで違う」と、レギューツアーにはキャディが1選手に1人つくため、妹、父に頼んで回った。

 ゼミでは労働法を研究する。将来は起業する夢も持つ。「これから役立つことを学ぶいい機会」と、学業にもどん欲だ。本を読みメンタルも強化。「悪い(成績の)自分も、自分だと認められない性格で、こんなんじゃないと自分を責めてしまう」と、打ち明けながら「今の自分を受け入れよう」と、そうマインドセットしてようやく調子も上がってきた。今秋からは女子の主将兼広報に就く予定。「情報量が少なくて、入部しようと思う学生が不安を抱く。存在を認知してもらうことで、チーム強化につながるなら」。ホームページの運営やSNSでの発信なども担い、率先してチームを支える意向を示す。

 これから勝負の戦いが待ち受ける。8月7日からは関西女子学生ゴルフ選手権(関西インカレ)、20日には昨年12位タイだった日本女子学生ゴルフ選手権(インカレ)がスタート。世界大学ゴルフ選手権を挟み、帰国後の9月2日からは連覇がかかる関西学生女子会長杯、17日には関西学生女子秋季1部校対抗戦…と、主要大会の数々を過密スケジュールで乗り越えなければならない。

 「2年間で絶対に(学生)日本一を取る」と、力強く誓う。プロテストは1次、2次、最終と3段階の実技を経て、最終プロテスト20位以内に入れば合格となるが、インカレ優勝者は1、2次テストが免除となる。「ゴルフの強豪大学を出てプロになるより、大学4年間しっかりと勉強して、そこからプロを目指そう」。父と交わした約束は忘れてはいない。残り2年間、夢に向かう河上の猛チャージが始まる。

 ◇河上 宮甫子(かわかみ・みほこ)北海道千歳市出身。小学3年からゴルフを始め、中学2年の時に初優勝。立命館慶祥に進学後も北海道高校ゴルフ選手権などを制覇。立命大に進み昨年、北海道女子アマのタイトルを獲得した。小学6年から中学3年までギターを習う。運動が苦手で「ゴルフをやっていなければ、絶対にスポーツをしていない」という。読書、作文が好きでよく表彰されたそうだ。好きな作家は東野圭吾。高校まで遊びに行った経験がほとんどなく、幼なじみと昨年初めてディズニーランドへ行き、その日だけクラブを握らなかった。尊敬する人は師の佐々木紀幸プロと天才バカボンのパパ。「これでいいのだ」の言葉が好きで、現状を肯定して前進するエネルギーを感じるそうだ。「いつかこれでよかったと思えるように」と願う。女子アマチュアランキングは1年前の100位から今は31位。身長163センチ。

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