◆パリ五輪 第4日 ▽体操男子 団体決勝(29日、ベルシー・アリーナ)
29日の男子団体総合決勝で日本が2016年リオデジャネイロ五輪以来、2大会ぶり8度目の金メダルを獲得した。12年ロンドン大会、16年リオ大会の体操男子個人総合を連覇した内村航平さんが、日本の勝因を分析した。
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本当にヒヤヒヤしました。日本は第2種目のあん馬で橋本選手の落下があり、次に中国の破壊的なつり輪を見て、得点を積み上げたかった跳馬でなかなか点数を伸ばせなかった。ラストの鉄棒は3・267点差で迎えました。絶望的ですよね。それでも諦めなかったことがやはり大きな勝因だと思います。
中国はしっかり作戦を立ててきていることが見えました。あん馬は2人、難度を落として確実に得点を重ね、得意のつり輪では逆にDスコア(難度点)を上げてきた。点を取るためにちゃんと戦略を練ってきていました。
3点以上の差で最終鉄棒を迎えた中国は、確実にいくために難度を落としたにもかかわらず、ミスが続きプレッシャーに勝てなかった。日本が諦めずに良い演技をしたことで、その重圧に負けてしまったと思います。本当にもう、技術とか難度とかではなく気持ち。日本の方が最後までしつこかった気がします。
昨日(28日)は、阿部一二三選手の柔道を見て、「ああ、やっぱ金メダル取るのっていいな」って思ったんです。「もう一回、味わいたいな」って。体操を見たら余計になりますよね。最後、プレッシャーのかかった場面での橋本選手の鉄棒は「代わってほしい」って思いましたもん(笑い)。「まじで代わってほしい」「やりたい」と思って。
ピリピリがめっちゃ伝わって、「これだよ、これだよ」というような高ぶる感情になりました。もう現役の調子が良かった時以来の感覚だったと思います。ゾワッとする感じに「体操っていいな」と心から思いました。今回、鉄棒のバーは握れないので、中継のマイクを力いっぱい握っていました(笑い)。
そして、やっぱり五輪は有観客だなということも改めて実感しました。日本代表選手には「会場を日本の色に染めろ」と言ってきましたが、この日は日本、中国、米国の3色が試合の流れで移り変わっていました。でも最終的に鉄棒で完全に日本一色にできた。今回は、最後の鉄棒で立て続けに相手の失敗がありましたが、それでも日本がちゃんとできるかどうかは分からない。ラストの橋本選手は、中国選手が2回落下した直後で、最後にやれるかどうかでした。あれはあれで「やっぱり強いな」と思いました。でも、これはまだジャブなんで。まだまだ決勝種目は残っており、日本体操界はまだありますよ。
ここまで、パリ五輪を通じて、人間として強く生きていくために、大事なことをスポーツを通じて伝えている感じがすごくあります。今回の体操も諦めずに頑張ることの大事さっていうのを改めて伝えてくれたと思います。負けたから「残念」、勝ったから「すごい」ではなく、人間としての強さも弱さも、僕自身も言葉にして伝えられたらなと思っています。(体操男子個人総合12年ロンドン、16年リオ五輪金メダリスト・内村 航平)