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大会最多の33人が出場した柔道最激戦区81キロ級 連覇の永瀬に見た「変わらない強さ」と「変われる強さ」…担当記者コラム

スポーツ報知 2024年8月1日 1時57分

 男子81キロ級で永瀬貴規(30)=旭化成=が同級で史上初の2連覇を達成した。決勝で世界選手権3連覇のタト・グリガラシビリ(ジョージア)に谷落としで一本勝ちするなど全5試合を制した。30歳9か月での五輪連覇は日本男子で最年長。2016年リオデジャネイロで初獲得した銅メダルから3大会連続の表彰台入りは男子の野村忠宏、女子の谷亮子に続き3人目となった。最激戦区の階級で連覇を遂げた要因を柔道担当の林直史記者が「見た」。

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 まさに王者の立ち振る舞いだった。永瀬は連覇を決めた瞬間、頭の中は「興奮状態だった」。それでも表情一つ変えず、観客席の四方に丁寧に一礼。畳を下り、ようやく笑顔がのぞいた。「東京以降、勝てない時期が続いて本当につらい日々だった。この舞台で勝つことだけを考えてやってきて、自分を信じて戦うことができた」と誇った。

 群を抜く稽古量は30歳になっても変わらない。東京五輪直後の9月には道場に現れ、周囲を驚かせた。拠点の筑波大・岡田弘隆監督(57)は「普通なら年齢的にきつくなってくるはずだが、どの学生より質も量も高い」と舌を巻く。男子の鈴木桂治監督(44)も連戦だった3月のGSアンタルヤ大会から帰国後、1週間オフを取るように伝えた。翌日、「ちゃんと休んでるよね」とLINEを送ると、「とりあえず道場には来ました」と返信が届いたと苦笑する。

 だが、東京五輪後は国際大会で7大会連続で優勝を逃した。国際連盟の審判規定の改正で指導のタイミングが早い傾向にあった。海外勢は不十分な体勢でもかけ逃げ(偽装攻撃)気味に技を出してくる。正統派の柔道の永瀬は、逆に消極的と判断されて指導を受ける悪循環に陥り「自分がじっくり試合を作ろうと思っているうちに後手後手に回っている」と悩んだ。

 原因は分かっていても体に染み込んだスタイルを変えることは容易ではない。優勝から遠ざかった時期は厳しい声や心配する声も耳に入ってきたが「パリで勝てばいい」と黙々と取り組んだ。昨年末に好調時の映像を見返し、長い腕と懐の深さを生かした間合いから足技をかける原点を再確認した。組み手のスピードを磨き、グリガラシビリとの決勝も速い組み手から圧をかけて次々と技を繰り出し、相手に攻める隙も与えずに圧倒した。

 東京五輪後、実は90キロ級に上げることも考えていた。だが「この階級で連覇したい」との思いが勝った。81キロ級は海外勢の層が厚く、今大会も全階級で最多の33人が出場していた。「日本人がなかなか勝てない階級と言われていた。それを覆したくて、誇りを持って取り組んでいた。証明できてうれしい」。五輪史上初の同階級連覇。「変わらない強さ」と「変われる強さ」が快挙へつながった。

 ◆柔道の五輪3大会連続メダル 日本勢で過去2人。男子は野村忠宏が96年アトランタ、00年シドニー、04年アテネ大会で3連覇。女子は谷亮子が5大会連続。92年バルセロナ、96年アトランタが銀、00年シドニー、04年アテネが金、08年北京で銅メダルを獲得。  ◆男子81キロ級は最激戦区 男子81キロ級は今大会男女全階級を通じて最多の33人が出場した最激戦区。阿部一二三が制した男子66キロ級は27人が出場していた。女子は48キロ級の31人が最多。

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