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柔道・素根輝を支えた高校時代の恩師「久美先輩」が語る伝説の5人抜き「いくら輝でも無理だと思っていた」

スポーツ報知 2024年8月3日 12時45分

 女子78キロ級で東京五輪金メダルの素根輝(24)=パーク24=は準々決勝でオズデミル(トルコ)に敗れ、敗者復活戦は左膝の負傷で棄権した。2連覇は逃したものの、22年3月の左膝の手術などを乗り越えてパリ五輪の舞台に立った素根を、福岡・南筑高に指導した児玉久美コーチ(44)がねぎらった。

 素根は南筑高時代、2年時に金鷲旗高校大会決勝で男女を通じて史上初の5人抜きを演じ、3年時に全日本女子選手権で優勝するなど華々しい実績を残した。だが入学当初は福岡・敬愛高3年だった児玉ひかるが壁として立ちはだかり、県大会や九州大会など5か月間で5連敗。児玉コーチは「中学で通用していたことが全く通用しない。ずっと負け続けている状態ですごく悩んで、練習中に毎日泣いていた。何とかしようと必死にもがいていた」と懐かしんだ。

 練習ではOBの男子選手らを相手に児玉対策に取り組み、自宅では特製の器具を使ったトレーニングやプロテインの摂取などでフィジカル強化に務めた。9月の全日本女子選手権で6度目の直接対決で勝利。全柔連の強化指定Dランクに初めて入り、出場権を得た講道館杯で準優勝。「東京五輪へのレールに乗ることができた」と語った。

 伝説となった17年金鷲旗高校大会。5人制の団体戦の決勝で、南筑は夙川学院と対戦した。夙川の先鋒・阿部詩に4人抜きされて一気に追い込まれたが、大将の素根が5人を抜き返して逆転。劇的な初優勝を飾った。

 前年は3位だったこともあり、素根は「絶対誰が来ても私が全部抜きます」と宣言していた。大会前は決勝までに少しでも体力を温存するため、1分以内でポイントを取る練習に力を入れた。準備も覚悟もしていたとはいえ、オーダーを組んだ児玉コーチも「まさかあんな試合になると私たちも想定してない。2、3人だったら平気で取るけど、何試合もこなしたらいくら輝でも無理だと思っていた。漫画みたいな試合」と興奮気味に当時を振り返った。

 高校卒業後は環太平洋大に進学したが、20年8月に自主退学し、再び母校を拠点に東京五輪に向けて調整し、金メダルにつなげた。座右の銘「3倍努力」を地でいく稽古量で「普通は10本の乱取りが『あと5本、あと5本』と納得がいくまで続く。私たちは高校生を励ましながら並べる役だった」。高校生にとっては練習量をどんどん増やされる状況だったが「文句を言う子がいてもおかしくなったけど、みんな真面目で受けを頑張ってやってくれた。先輩や後輩も含め、高校生も陰の立役者です」とたたえた。

 東京五輪後は東京が練習拠点となったが、年に数回、福岡・久留米市に帰省してきた時には欠かさず会っている。田主丸中時代の恩師の黒岩浩隆氏や南筑高の松尾浩一監督らと焼き肉に出かけたり、練習の合間の昼間にとんかつやスイーツを食べに行く。「輝は『久美先生』ではなく『久美先輩』って呼んでくれる。年は離れているけど、お姉ちゃん的な存在だと思って、私なりに寄り添ってこれたのかなと思います」。パリから帰国したら、以前から約束していた温泉旅行に誘うつもりだ。(林 直史)

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