◆パリ五輪 第10日 ▽陸上(4日、フランス競技場)
4日に行われた男子100メートル準決勝で、世界選手権2大会連続ファイナリストのサニブラウン・ハキーム(25)=東レ=は9秒96(追い風0・5メートル)の自己ベスト、世界大会での日本勢最速記録をマークするも、決勝進出ラインにはわずか0秒03及ばず。1932年ロサンゼルス五輪の吉岡隆徳以来、日本勢92年ぶりとなる五輪の決勝を逃した。日本のエースが目指す目標や前を向き続ける姿勢、世界との差を陸上担当の手島莉子記者が「見た」。
92年、開かずの扉はさらに重みを増していた。サニブラウンはフィニッシュラインに、願いを込めるように体を前に傾けた。自己記録を更新する9秒96。決勝進出(9秒93)まで0秒03差、約30センチ届かなかった。「マジで足りない。もっと行けた。アジア記録(9秒83)を出すぐらいの勢いで走らないと。勝てなきゃ意味がない」。五輪史上初めて9秒台でファイナリストになれないという壁にはね返され、頭を抱えた。
レース後、報道陣に対応した7分で、7度「足りない」と口にした。実力、努力、勝負強さ…。「五輪は全く違う。ここでメダルを取っている選手がいかにすごいのか、感じた」。自己ベストに満足する言葉は最後まで聞かれず、世界レベルへの渇望をさらに強めたように感じた。
伸びしろはある。今季改善したスタートは「誰にも負けない」と上々に滑り出したが、約80メートルから「テンポが停滞した」と差を広げられた。「足を回してっていう表現は好きじゃないんですけど…(勝つために)やっていかないといけなかった」。世界の猛者たちは「一番切羽詰まる」と表現する準決勝の舞台でフォームを崩さず走り切った。「1ミリでもゴールに速く入らないと」。その思いを追求する余地はある。
拠点を置く米国のタンブルウィードTCでは、東京大会で金メダルを獲得したヤコブス(イタリア)らとともに鍛練に励む。「1ミリを縮めるために皆、練習に励んでいる」。ポテンシャルだけではなく、日々の努力を間近で見てきた。「差を縮めるためにもっともっと頑張っていかないと」。目標のラインも明確にある。
決勝は7人が9秒8台以下で走破した。サニブラウンと銅メダルの差は0秒15。メダル獲得には約1メートル50センチ縮めることが必要だ。「悠長なことを言ってる暇はない気がします」という差に危機感を覚える。「ここまで来たら本当に強い選手が勝ち上がる。他の人を気にせず、自分の走りができる選手が勝っていくと、ずっと思っている。そういう選手になれるように」。メダルを手にするその日まで、サニブラウンは満足することはない。(手島 莉子)
◆サニブラウンに聞く
―どのくらいのタイムを想定していた?
「(9秒)95を切るくらいはいかないと、決勝には行けないと思っていた」
―大観衆の五輪。
「やっぱり楽しい。こういう舞台で走れるってのもすごい幸せ。悔しい結果になったがこの舞台で走れたことはうれしいし、誇りに思えること」
―ロサンゼルス五輪までの4年間の取り組みは。
「ゆっくり考えていこうかなと思います」
―400メートルリレーは。
「3走以外ならどこでもいい。どこでも走れます」
―来年の東京世界陸上へ。
「国立競技場を満員にしたい。この悔しさを胸に、来年はもっともっと良い結果を出してもっと良い走りをして、笑って終わりたい」