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玉井陸斗を育てた馬淵崇英コーチ「原始的」な環境から積み上げた世界と戦う施設…パリ五輪

スポーツ報知 2024年8月11日 9時0分

◆パリ五輪 第16日 ▽飛び込み(10日、アクアティクスセンター)

 男子高飛び込みで、17歳の玉井陸斗(JSS宝塚)が日本勢初のメダルとなる銀メダルを獲得。日本飛び込み界の悲願を達成した。飛び込み競技がまだ盛んでない日本で世界に挑み、環境面では苦労しながら選手を導いた馬淵崇英コーチ(60)。手作りの練習器具が並ぶプールで王国・中国に挑み続け、35年の時を経て思いが結実した。

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 玉井が飛び込みを始め、練習拠点としているのがJSS宝塚。1メートル(M)と3Mの飛び板が設置された温水プール施設の裏に、幅2メートルほどの通路がある。そこには2枚の飛び板が取り付けられ、プール横の空き地にはトランポリン2台と、空中感覚を養う器具「スパッティング」が1個。そして日の当たる5畳ほどのプレハブに、筋力トレーニング器具が置かれている。

 これらは全て、1989年からJSS宝塚でコーチをしている馬淵崇英コーチが備え付けた、お手製の器具。同コーチは、88年に語学留学で中国から来日後、クラブを設立した馬淵かの子さん(86)と出会い、日本での指導に携わった。飛び込みの本場、中国で選手だった崇英コーチ。当初は競技環境の劣悪さにがく然としながらも、工夫をこらして6大会五輪出場の寺内健氏、そして日本初の五輪メダリストとなった玉井ら多くの五輪選手を輩出した。

 馬淵コーチは言う。「簡単に言えば、中国は現代的で、日本は原始的。この様な環境で陸斗のような選手が出てきたことは、奇跡」。日本のナショナルトレーニングセンターに指定されている栃木・日環アリーナには一通りの練習環境がそろうが、規模が桁違いという。 「例えば、中国は一つのドライランドの中に、トランポリンが20台。宇都宮は2台。スパッティングも、20セットはついている」。当然、国の規模や力の入れようが異なる事は承知しつつ、それでも五輪は同じ舞台で戦わなければならない。来日から35年、クラブに無理を言って場所を確保し、一つずつ増やした練習器具。「最低限はそろうようになった」と、玉井らが世界と戦うための強化施設を、汗を流して作り上げた。

 かの子氏は、いつも玉井らに伝えるという。「崇英コーチに、感謝せなあかんで」と。この日、まな弟子を日本の悲願達成に導いた名将は、万感を込めて言った。「施設のことは悩み続けて、これでメダルを取れるかと言うのは、全く自信がなかった時からスタートして。なかったら作ろうかと。メダルの夢を諦めるということはなく、ちょっとずつ。メダルを取ると言い続けて、苦労して。皆の力を合わせて、とにかく陸斗に取ってもらおうという思いでやってきました」。玉井から、首にかけてもらった銀メダル。目からあふれた涙が、全ての苦労を洗い流した。(大谷 翔太)

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