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「走り抜いた夏」パリ五輪女子マラソン6位入賞の鈴木優花は中学時代に作文コンクールで入賞 「細かすぎるデータ」の増田明美さんから聞いた話

スポーツ報知 2024年8月12日 12時0分

 パリ五輪が終わった。最終日(11日)の女子マラソンで、五輪初出場の鈴木優花(24)=第一生命グループ=が2時間24分2秒の自己ベスト記録で6位入賞を果たした。先頭集団から離されながら追いつくこと3回。秋田県出身の24歳は粘り強い走りを見せた。レース後、1984ロス五輪女子マラソン代表で、現在は「細かすぎるデータ」の解説でおなじみの増田明美さん(60)に鈴木の「細かすぎるデータ」を、さらに細かく聞いた。

 「鈴木さんは、とても文才があり、中学2年生の時、東北電力が主催する中学生作文コンクールで入賞しています。その作文がとてもステキで小説のようです。題名は『走り抜いた夏』。今年の夏、鈴木さんはパリの夏を走り抜きましたね」と増田さんは優しい口調で話した。

 早速、調べてみると「東北電力・中学生作文コンクール」は1975年から実施され、今年で第50回を迎えた伝統のあるコンクール。公式サイトによると、これまで70万人を超える東北6県と新潟県の中学生が応募したという。宮城県出身の同僚に聞くと「そういえば覚えている。夏休みの宿題だった」と懐かしそうに話した。

 公式サイトをさらに詳しくチェックすると、2013年の「第39回中学生作文コンクール入賞者一覧」の佳作として「秋田県大仙市立中仙中学校2年 鈴木優花 題名『走り抜いた夏』」と記されていた。

 パリ五輪女子マラソンで入賞した鈴木は、11年前には作文コンクールで入賞していた。増田さんの言う通り、鈴木の作文は、スポーツ小説のように爽やかで、とても、読み応えがあった。

 現在も公式サイトで「東北電力 第39回中学生作文コンクール」の全作品が世界中に公開されているので、ここに紹介させていただく。

 「走ることが大好きです」と明言し、常に感謝の気持ちを忘れない鈴木優花というランナーの魅力を詳しく知ることができる。

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「走り抜いた夏」

秋田県大仙市立中仙中学校

二年 鈴木優花

 ポンッと地面を蹴る感覚。一定のリズムを刻んで弾む感じ。そして、サァーっとすり抜ける風。

 私は走ることが大好きです。走り終えた後は何とも言えない爽やかさを感じることができます。そして、何より、もやもやしている心の中をすっきりさせてくれるものなのです。

 中学生になり、急激に長距離の記録が伸び始めた私は、陸上競技大会や駅伝大会の選手として出場する機会に恵まれました。今年も地区予選、全県大会、東北大会などの大会に出場しました。自分としては夢にも思っていなかった東北大会にも出場し、予選、決勝とタイムを伸ばし、ついには入賞することができました。

 しかし、このような恵まれた経験をさせていただく中で、ただ一つ、心にひっかかっていることがありました。何でも誰かに話せばすっきりするというわけでもないと考えていた私は、母にさえこのことを話したことがありませんでした。

 実は、私は長距離選手である前に、バスケットボール部員なのです。それなのに、六月からは陸上の大会やそれに向けた練習に時間を割くことが多くなっていきました。陸上にかける時間が多くなればなるほど、バスケの方がだめになってしまうのではないか、そして、友達との距離がどんどん大きくなり、最後には一人になってしまうのではないかという不安に襲われていったのです。それでも家族や友達の前ではその思いを隠し、何事もないかのように振る舞っていました。この不安が最も大きくなったのが、バスケ部三年生の先輩方の、最後になってしまうかもしれない大会と、陸上の全県大会の日程が重なってしまった時でした。

 「今はベンチに入っていないし、陸上に行っても何も問題ない。もったいないと思う。来年は出られないかもしれないんだよ。」と両親や先生方に言われ、陸上の大会に出場することを決断しました。「来年はないかもしれない」と思うと陸上を選ばずにはいられなかったのです。

 そして、全県大会に向けた練習が本格的に始まりました。練習には、教頭先生が毎日来て指導してくださいました。正直、苦しい練習でしたが、力が付いていくものと信じて一生懸命に走りました。

 バスケ部出発の日。みんなが慌ただしく荷物を車に積み込む作業で忙しい中、私は玄関でみんなを見送るために待っていました。出発準備を終えると

 「鈴木、頑張ってね!」

と声をかけてくれた友達がいました。その声を聞いた時、チームから抜けてしまった自分を応援してくれている人がいるというありがたさと、先輩の最後になるかもしれない大会に応援に行けない悔しさが渦巻いて泣いてしまいました。「ごめんなさい」と心の中でひたすら唱えながら泣いていると、みんなが、「大丈夫だよ。また三日後に会えるから!」と言ってくれたり、「鈴木頑張れ!」と声をかけてくれた先輩もいました。その時、私はこんなにも周囲から応援してもらっていて、独りじゃないということを実感しました。みんなが出発する時には笑顔で手を振りました。

 全県陸上大会当日、予選ではバスケ部のみんなのことを思い浮かべながら走りました。結果は予選三組目では一位でした。その情報はバスケ部のメンバーにも伝えられました。母によるとキャプテンのお父さんと電話で話している時、電話の奥から「すごい!これは応援でしょ。」という声が聞こえたそうです。次の日、控え場所で出番を待っていると、引率してくださっていた先生からバスケ部のみんなが応援に応援に来てくれることを聞きました。私はとても嬉しくなり、思わず「やった!」と声を漏らしてしまいました。

 決勝が始まると先輩も友達もみんながうちわをたたいて応援してくれました。私もそれに応えようと必死で走りました。そして、全県三位に入賞することができました。

 先輩方は中学校最後の大会を終えてしまったにも関わらず、私のために応援に立ち寄ってくれて、本当に感謝の気持ちでいっぱいでした。そして、陸上の大会に送り出してくださった監督、引率してくださった先生、練習を付けてくださった教頭先生、心から応援してくれた家族にも本当にありがとうと伝えたいです。東北大会でもみんなに支えてもらったからこそ、八位入賞を果たせたのだと思っています。

 人は支えられて生きている。

 改めて感じた「夏」でした。これからも常に感謝の気持ちを持ち続けて生活していきたいと思います。

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