◆第１０６回全国高校野球選手権大会第１４日▽決勝 京都国際２―１関東第一＝延長１０回タイブレーク（２３日・甲子園）
インタビュアーに促され、京都国際・藤本陽毅遊撃手（３年）は、お立ち台から球場全体を見渡した。「つらかったことの方が本当に多かったけど、全部報われた」。センバツ後に主将に就任してからは、公式戦無敗で日本一に輝いた。
「彼の一通のファクスから始まった」。小牧監督が懐かしんだのは、指導方針に共鳴した藤本が自ら送った入学志願書。これをきっかけに入学が決まり、１年夏には背番号６を勝ち取った。ただ、個の能力は高くない世代。今春の低反発バット導入前から「低反発打線」と、自虐ネタが飛ぶほど打てなかった。
転機は昨秋の京都府大会中の出来事。藤本はウイルス性肝炎になり、福岡の実家で１か月間の療養生活を送った。「みんなの結果より、自分の結果が大事だった。でも、病気になってから、いろいろな人に迷惑をかけて『誰かのために』という言葉を大事にしてやってきた」。入学時、甲子園出場よりプロ入りへの思いを強く持っていた男が、仲間に連れて行ってもらった今春センバツをきっかけに変わった。
思いは周りにも浸透した。例年よりチーム練習を増やし、その分、減った個人練習は、競い合うように場所を確保した。午後１０時半まで全員が励んだ結果、甲子園初優勝で実を結んだ。進学予定の藤本は「みんなで助け合って束になった。最高のチーム」と、支えられた日々に胸を張った。（瀬川 楓花）