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糸井重里さん「負けたらがっかり、は言われた側が一番痛い」、森保一監督「批判や反対意見は自分が成長できるヒント」…異色スペシャル対談

スポーツ報知 2024年8月31日 16時0分

 サッカー日本代表の森保一監督(56)と、スポーツ報知コラムでおなじみのコピーライター・糸井重里さん(75)のスペシャル対談が実現した。森保監督が強く熱望して実現し、年齢も職業も異なる2人が初対面。2022年カタールW杯1次リーグ初戦で日本が強豪ドイツを撃破後、コスタリカに敗れた際に浴びた批判への向き合い方のほか、9月5日の中国戦(埼玉)から始まる26年北中米W杯アジア最終予選に向けて糸井さんがエールを送った。(取材・構成=星野浩司)

 W杯最終予選を間近に控えた8月中旬。森保監督と糸井さんが初めて顔を合わせた。欧州の強豪クラブで活躍する選手が増えた日本代表が合宿で使用する千葉・JFA夢フィールドのロッカールームで語り合った。

 森保「今の選手、みんなすごいんですよ。日本人が世界の舞台で戦っているのを見るとすっごい自信になって、すっげぇ~選手たちが日本人のメンタリティーを持ってひとつになって戦えれば、世界一を取れる日が来るとすごく思わせてもらえる」

 糸井「森保監督の中に、日本チームファンという要素が入ってますね。今、すっげぇ~って言った時、ファンの顔でしたよ。勝たせてくれる監督も面白くあってほしいですよね」

 森保「おっしゃる通りです。すごい心を見透かされているみたいで…」

 8大会連続のW杯出場をかけた最終予選。勝てば称賛、負ければ批判を受ける厳しい戦いが始まる。

 糸井「勝て、負けるな、っていうのは、もちろんいつも思っているんだけど、同時に、楽しいぞ、やってるやつが一番うらやましいぞ、(森保監督という)一番のサポーターがそこにいると思いながら見ます。みんながそうなったら、もっといい試合が見られるような気がするんで、頑張ってください」

 森保「はい。我々、魅力のある試合をできるように、まずはピッチ上からベストを尽くしたいと思います」

 糸井「サポーター界の頂点にいる人だから(笑い)」

 森保「あ、すごい、その表現! いただきます。いや、でも本当そうですね」

 今回の異色対談が実現したきっかけは2年前に遡る。カタールW杯で森保ジャパンがドイツを撃破し、期待が大きく膨らんだ第2戦でコスタリカに0―1の黒星。SNSなどで“手のひら返し”で批判を浴びた中、糸井さんがX(当時ツイッター)にメッセージを書き込んだ。

 「『せっかく(応援していたのに)がっかりです』という『せっかくがっかりの係り結び』は、ほんとうに迷惑だよなぁ。これに『もう見ません』とか『もう応援しません』とか付くと悪い意味で完璧ですね。スペイン戦がもうはじまってますから、という選手たちはやっぱりヒーローたちだよ」(原文まま)

 このツイートに感銘を受けた森保監督の強いリクエストで対談が実現した。

 森保「コスタリカに勝てず、批判の声が出た中で、糸井さんが我々に励ましのメッセージを送っていただいたことを後々知りました。いつも日本代表の応援をしていただき本当にありがとうございます」

 糸井「かえって恐縮です。『せっかく応援してたのに、がっかりです』っていう考え方は良くないんじゃないかと。せっかくこんなに自分の時間や命を削って応援してたのに、負けたからがっかりしたっていうのは、言われた側が一番痛いんですよね。身を犠牲にして応援してくれた人の期待を裏切ったと思わせる言葉なんで、あれは悪口を言う時の一つの伝家の宝刀みたいな」

 森保「そうですね。我々は称賛も批判の声もあるのは覚悟していて、当たり前だと思ってます。でも、戦いが続いてる中で次の試合へ気持ちを切り替えて向かって行こうよっていうメッセージとしては、もう最高なものをいただいた。せっかく応援したのに、負けてがっかりという言葉の使い方を教えてくださって、私自身は監督として言葉足らずのところがすごく多いので、言葉を整理して伝えることはすごく大切だな、響くなと思ったのは正直に学びがありました」

 糸井「『せっかく』と『がっかり』は、ある意味、人間のありきたりな感情だと思うんです。ほっとけば人間の感情は、自然な方に向けると、良からぬこともたくさんやる。欲もあるし、自分がかわいいし、何かあった時には自分より人を責めたい。自然な感情の流れのままにぶつけた時、受け止めた側がけっこう痛いぞっていう」

 森保「あぁ~(と相づちを打つ)」

 糸井「それを(自分は)整理して、よくある怒り方をおまえらしてるぞっていうことを言いたかったんだと思うんです」

 森保「批判や反対意見が出てくることは、実は自分の見方を広げてもらえる、自分が成長できるヒントがそこには隠されていると、ポジティブに、ありがたく受け取ってます。一番さみしいのは、無関心ですね。誰も興味を持ってもらえてないのが一番悲しいこと。関心を持ってもらい、輪が大きい方がうれしいです」

 糸井「監督やコーチという立場になる前から、そういう傾向がありました?」

 森保「そうですね。選手時代から試合で負けたりミスもある中で、ヤジもいっぱい飛んできました。若い時は『おまえ、ちょっと下りてこい!』と反応したこともあります(笑い)」

 糸井「なくはないんですね」

 森保「お金を払って見てくれているので、観客の皆さんは好きなことを言って自分の感情をさらけ出してもいいことだよなと、自然に選手時代からも思っていました。今はテレビやSNS、いろんな媒体で見ていただく中で、関心を持ってもらえることが一番です」

 糸井「そこまでたどり着くの、すごいですね。それだけ多くの粒だったものがいっぱい飛んできている。よくも悪くも、それを経験なさったからですかね」

 森保「でも、批判的な意見は『イテッ…』って思うことはもちろんあります」

 糸井「イテッはある」

 森保「根幹は、人って十人十色、千差万別だよなっていう。それぞれ個性があって当たり前だよなと昔から思っていました。『和をもって尊しとなす』です」

 糸井「聖徳太子ですね」

 森保「我々はチーム一丸で戦うというのもありますけど、『和して同ぜず』もあっていいかなと思う。個性も持ちながら、サッカーの輪が広くなっていくのを見ていきたいです」

 ◆森保 一(もりやす・はじめ)1968年8月23日、静岡・掛川市生まれ、長崎市育ち。56歳。長崎日大高から87年にマツダ(現広島)入団。92年に日本代表初選出。国際Aマッチ35試合1得点。京都、広島、仙台を経て2003年に引退。J1通算293試合15得点。05年からU―20日本代表コーチ。12年に広島監督に就任し、3度のJ1優勝。17年10月から東京五輪代表監督。18年7月からA代表と兼任監督。21年東京五輪は4位。22年カタールW杯は16強。26年W杯まで続投。家族は妻と3男。

 ◆糸井 重里(いとい・しげさと)1948年11月10日、群馬・前橋市生まれ。75歳。株式会社ほぼ日代表取締役社長。コピーライター、エッセイストとして幅広い分野で活躍。78年に矢沢永吉の自伝「成りあがり」の構成を担当。79年に沢田研二の「TOKIO」を作詞。「おいしい生活。」「不思議、大好き。」など西武百貨店やスタジオジブリ作品のキャッチコピーなどを手がけている。本紙でコラム「Gを語ろう」を連載中。妻は女優の樋口可南子。

 ◆取材後記

 千葉市のJFA夢フィールド。気温35度、強い日差しが照りつける天然芝のピッチで森保監督と糸井さんは、寝そべりながら満面の笑みでポーズを取った。「まるで恋人みたいだね~」と糸井さん。約2時間前に「はじめまして」と握手を交わしたとは思えないほど、和気あいあいだった。

 「おっしゃる通りです」。101分間の語らいで、森保監督はこの言葉を16回も発した。日本代表の選手が使うロッカールームで行われた対談。森保監督の心を見透かすような言葉や話題の展開は軽快かつ深く、時間を忘れるほど聞き入った。数か月前に森保監督から要望を受けて実現。年齢も活躍するジャンルも違う2人の初対面だけに、スムーズに進行できるだろうかと抱いた不安は一蹴された。

 「サッカー素人」と自称し、対談前に森保監督の素顔を掘り下げてほしいと要望を伝えると「自信がないな~」。その言葉には、いい意味で裏切られた。「僕は別に専門家でも何でもないんで」と謙遜しながらも発した、生きた「言葉」の数々。森保監督の言葉を借りれば「学びになりました」。(星)

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