【台北(台湾)5日=加藤弘士】野球のU―18アジア選手権のパキスタン代表で、三沢(青森)のジャン・ハスネン投手(3年)が天母野球場で行われた、高校日本代表の練習に参加した。
170センチ、103キロの恵まれた肉体から木製バットで強烈な打球を飛ばした。左翼席に着弾すると、侍ナインは「エグッ!」「ナイスバッティング!」と驚嘆した後、大きな拍手でジャンに敬意を表した。高校日本代表の小倉全由監督(67)からはマンツーマンで打撃特訓を受け、打撃を称賛された。最高の笑顔で大粒の汗をぬぐった。
「日本のチーム関係者の方々のおかげで、こうやって練習させていただき、本当にありがたいです。こんなトップレベルの選手と同じ場で練習できるのは、なかなかできない経験。刺激をもらいました。小倉監督の一言で、スイングが変わりました。言われたことを自分のものにして、これからも練習を頑張りたいです」
両親はパキスタン人。小4から青森に住む。パキスタン代表に初選出され、今大会にかけていた。だが台北入り後、仲間が来られないと知った。同国の国内選手は政治的な理由で、外交関係のない台湾への渡航を止められたのだ。日本、米国、カナダから来たメンバー5人のみしか集まらず、棄権を余儀なくされた。
「残念でした。何かを得るために国際大会に来たので。試合に出られず悔しい思いがありました」
落ち込むジャンに朗報が届いた。日本代表スタッフからの「一緒に練習しましょう」という粋な計らいだった。
夏の甲子園大会を「できるだけ見ていました」というジャンは、京都国際の全国制覇に貢献した左腕・中崎琉生(3年)のファンだった。その中崎から「キャッチボールやろう!」と呼びかけられ、ともに汗を流した。「優勝投手は、球の質とか、レベルが違いました。本当にすごかった」。いい表情で言った。
米国やカナダから集ったパキスタン国籍の仲間と、一緒に出場することはできなかった。「みんな英語なんですが、最初はしゃべれなくて。最後に仲良くなったんです。思っている以上にすごい選手が集まって、いい勝負ができると思っていたので、試合ができず悔しいです」。そして、5人で誓った。「また全員で、このチームで一緒にやろう」。フル代表で国際大会に出る-。新たな夢ができた。
日本代表の間木歩主将(報徳学園3年)からはJAPANの帽子を贈られた。お礼にパキスタンのチームTシャツをプレゼントした。柵越えしたボールとともに、温かい気持ちがこもった宝物ができた。「みんなに自慢したい。自分の部屋に飾って、いつでも思い出せるようにしたい」とジャン。野球人の、人を思う熱き心には、国境なんてない。