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【師弟初対談】藤波朱理×伊調馨「強い人=怖いので。最初は怖かった」「誰かが厳しく言わないと」ロス五輪で連覇へ“共闘”

スポーツ報知 2024年10月3日 12時0分

 パリ五輪のレスリング女子53キロ級で金メダルに輝いた藤波朱理(あかり、20)=日体大=と2004年アテネ大会から五輪を4連覇した伊調馨(40)=ALSOK=の師弟対談が初めて実現した。公式戦137連勝中の藤波は、日体大で女子コーチを務める伊調の指導を受けて着実に成長。互いに高め合ってきた関係性への感謝を伝え、28年ロサンゼルス五輪での連覇へ“共闘”を誓った。(取材・構成=林 直史)

 藤波(以下、藤)「パリ五輪はずっと目標にしていた舞台。やれることは準備してきたので、そこに立ったら雰囲気や試合自体も楽しんで、教えてもらったことを出すだけだなと思っていました。馨さんはいつも『楽しめ』と言ってくれますよね。今回の五輪も声が聞きたくて試合の直前に電話して。『やってこい』と言われて、泣きそうになりましたけど、心を決めて思い切って挑めました」

 伊調(以下、伊)「練習中は追い込む選手なので試合だけは楽しんでほしいなって。心配はしていなかったけど、自分の時とは違う緊張感はありましたね。『ちゃんと練習通りやれよ』って。それがいかに難しいかは4回経験して分かっていたので」

 藤「五輪後は想像以上にバタバタですけど、この4年間はパリに全てを懸けてきたので、今しかできないことをやりたいなって思いもあります」

 伊「私は五輪の直後は疲れるぐらい遊びたいと思っていたな。でも、翌日の練習を考えると、疲れるのが怖い。だから、ディズニーランドとか行きたくても行けなかった。友達とお茶を飲むのが一番のオフ」

 藤「うんうん、分かります。ディズニーランドには行けないですよね。オフはどうしても次の日、練習っていうのが頭の中にある。だから、今は夜更かしできるのがすごくうれしくて。眠くなるまで、好きなYouTubeを見ながら幸せを感じています」

 伊「でも、私は同じ20歳の時はここまでしっかりしていなかったかな。遊びもレスリングも全力でっていう大学生の方が多いと思うけど、朱理はレスリング一本なので」

 藤「例えば恋愛や友だちとの遊びも全部きれいにできて、目標を達成する人もいると思うんです。でも、自分は器用じゃなくて。普通の大学生を見ていて、うらやましいなと思う時もあります」

 伊「レスリングに対する姿勢もそうだし、減量もある。ブレずにいろんな我慢をしていると思う」

 藤「自分との約束は絶対に破りたくない。例えば減量で『ちょっとなら…』を1回許しちゃうと、自分は多分そっちにいってしまう。金メダルのためなら何でも我慢できると思っていたし、実際に取って全部を我慢しても目指して良かったと思えたので。全然平気でした」

 伊「もう言うことない。一つの差が1週間、1年と続けるうちに大きな差になっていくことを感じてるんじゃないかな。朱理は入学前から積極的に当たりにきて、吸収しようとしているのが丸分かり。私もそれに応えてやれるところまでやりたいなと思って。1人の選手をどう倒すかを考えるのがレスリングの面白さ。私をもう一回、レスリングに向き合わせてくれたのが朱理の存在だった。今、話していて感謝しなきゃなって思いました」

 藤「照れますね。初めて日体大に来たのは高校生の時でしたけど、強い人=怖いので。馨さんも最初は怖かったんですよ」

 伊「強い人=怖いって、何?(笑い)」

 藤「強すぎるから。意味分からないですよね。(五輪)4連覇とか」

 伊「分かるわ(笑い)」

 藤「だけど、当たりにいかない理由も分からないし、絶対に何か吸収したいなと思って。大学に入って馨さんと毎日練習して、どうポイントを取るのかを考えていたことが大きく成長につながったし、終わった後にどうだったとか、話す時間もすごく好きです。こちらこそ本当に感謝しています」

 伊「最近はあまりやれていないけど、スパーリングも結構やったよね」

 藤「バチバチで、同期とかは『怖かったよ』って言ってますね」

 伊「勝率はトータルでは五分五分ぐらいかな。(藤波が)1年生の時にだいぶ稼いだので。今は私が体力ないのが分かってきて後半に点数取りにくるので、ちょっとせこいんですよ。これからはルール変更で3分でいこうかな」

 藤「いやいや、6分でお願いします。まだまだ吸収させてください」

 伊「できるところまでは頑張ります。私しかいないと思っているので。朱理を倒せるのは」

 藤「今は強くなることだけを考えてやっていきたい。パリでも2回戦の2失点だったり課題が見えたので。これまで通りビシバシお願いします」

 伊「ビシバシやります。五輪チャンピオンになったら、いいよ、強いねという言葉が多くなる。誰かが厳しいことを言わないといけない」

 藤「間違いないです。そういう人を自分は大事にしたいと思います。お願いします。これからも」

 伊「まとまった! うまくまとめたね」

 ◆藤波のパリ五輪 初出場で1回戦から2戦連続フォール勝ち。準決勝は東京五輪2位の倩玉(ほう・せいぎょく)をテクニカルスペリオリティー(TS)で下し、ルシアジャミレス・ジェペスグスマン(エクアドル)との決勝も3分37秒でTS勝ち。セコンドの父・俊一コーチに抱きつき「オリンピック最高! レスリング最高!」と歓喜した。

 〇…藤波は11月24日に団体戦の東日本大学女子リーグ(東京・自由が丘学園高)への出場を予定しており、パリ五輪後初戦となる見込み。今後は28年ロサンゼルス五輪を目指す上で階級を上げることも選択肢に入れており「階級は馨さんだったり、コーチとも話しながら決めていきたい。また強くなるための選択をしたい」と慎重に語った。

 ◆取材後記 対談を通し、2人が見せた柔らかな表情から気の置けない関係性が伝わってきた。藤波は「話しやすくて何でも話せる」と信頼を口にした。伊調は教え子の連覇への期待を聞かれると「まだまだひよっ子なので。これからです」と辛口の言葉を発しながらも、「レスリングに関しては全く心配ない」と笑顔だった。

 藤波が特に真剣に聞き入っていたのは、08年北京後にカナダに約1年間語学留学するなど、伊調が五輪4連覇に挑んだ過程の経験談だった。20歳が今後、五輪連覇やその先を目指す上で、心も体もぶつけ合える“道しるべ”が近くにいることは、何よりの強みになると感じた。(レスリング担当・林 直史)

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