◆米大リーグ ワールドシリーズ第5戦 ヤンキース6―7ドジャース(30日、米ニューヨーク州ニューヨーク=ヤンキースタジアム)
ドジャース・大谷翔平投手(30)がメジャー7年目にして初めてワールドチャンピオンに輝いた。打者に専念した今季は史上初の「50―50」(50本塁打&50盗塁)を達成するなど、歴史的な活躍。2年連続のMVP受賞も確実視されている。その足跡を、「世界一締め SHO撃1年」と題して全3回で掲載する。第1回は、大谷にあった出会いと別れ。
突然の発表だった。キャンプのため滞在していた米アリゾナ州では2月29日午前0時30分頃、日本では同午後4時30分頃。大谷はインスタグラムで結婚を電撃発表した。これだけの注目選手ながら、これまで浮いた話は一切なし。自ら公表しない選択肢もあったが「一番は、みなさんがうるさいので」。報道陣を笑ってけん制したが、メジャーリーガーとしての自覚も感じられた。
メジャーでは多くのチームに“夫人会”が存在。ドジャースもそのひとつで、NPB球団以上に家族同士の絆は深い。これまでプライベートをほとんど明かしてこなかった大谷だが、3月の韓国遠征では真美子夫人とともにチャーター機から降りて報道陣の前を通り、7月の球宴では手をつないでレッドカーペットを歩いた。球団行事にもたびたび夫婦そろって参加している。これまでの姿からは想像もつかないが、チーム内で浮いた存在にならないためにも、家族を隠そうとしないメジャー流に従ったのだろう。
球場外での充実は、野球にもつながった。今季は投手の調整がなかったため「あんまり球場にいないようにはしてる」。ぬれた髪も乾かぬまま試合終了10分ほどで帰宅することも珍しくなく、球場入りするのも遅めのことが多かった。「野球以外を考える時間が多くなった」。ストイックな生活が目に見えて変化していた。真美子夫人、愛犬・デコピンとの生活があったからこそ「よりグラウンドにいる時に野球に集中できるようになった。もちろん感謝したい」と、選手としても、人間としても成長した。
だが、思わぬトラブルにも巻き込まれた。3月20日の韓国・ソウルでの開幕戦終了後、水原一平元通訳が違法スポーツ賭博への関与、さらに大谷の口座からの多額の窃盗なども明らかとなり、解雇された。エンゼルス時代は通訳業務だけではなく、練習パートナー、運転手、ゲーム相手など公私ともに支えてきた恩人でもある。球場内外でほとんどの時間を一緒に過ごしてきた相棒が突然消えた。捜査などのため、大谷の生命線とも言える睡眠時間を削られることもあり、4月中は体調は万全ではなかった。
苦境を乗り越えた。アイアトン新通訳にも支えられながら、選手や首脳陣、スタッフらと直接英語で話す機会が、格段に増えた。新天地1年目。「まずは環境に慣れる、チームメートに慣れることが最優先」。これまでの6年間で培った英語力で直接会話することで、距離はグッと縮まった。エンゼルス時代、ある選手が「翔平が英語ができて、もっと直接話せたらいいんだけど…」と漏らしていたことがあった。だが、今では通訳を介さずに選手間で情報交換をするベンチ内の光景も、珍しいものではなくなった。ロバーツ監督もその語学力に「うまい。ジョークも言うしユーモアもある」と驚いていたほどだ。
名門球団の重み、打者専念、10年総額7億ドル(約1022億円=契約発表時のレート)の超高額契約、通訳の不祥事…と逆境、重圧には事欠かなかったが、圧倒的な結果が、チームメートに存在を認めさせた側面もあった。