ドジャース・大谷翔平投手(30)がメジャー7年目にして初めてワールドチャンピオンに輝いた。打者に専念した今季は史上初の「50―50」(50本塁打&50盗塁)を達成するなど、歴史的な活躍。2年連続のMVP受賞も確実視されている。その足跡を、「世界一締め SHO撃1年」と題して全3回で掲載する。第2回は「50―50」を支えた準備力。
* * *
その快挙を、ドジャース・ナイン全員が祝福した。9月19日の敵地・マーリンズ戦。大谷は6打数6安打、3本塁打、10打点、2盗塁という異次元の活躍を見せメジャー史上初となる「50―50」(50本塁打&50盗塁)を達成した。5打席目に50号を放って偉業をつかむと、ベンチではナイン一人ひとりとハグをして喜びを分かち合った。
この試合は、ポストシーズン(PS)進出を決めた一戦でもあった。だが、試合後のクラブハウスで主役になったのは大暴れで偉業を手にした大谷。もともとシャンパンファイトの予定はなかったとはいえ、グラスに入ったシャンパンを持ったナインの中心には大谷が立った。英語で「今日勝ってポストシーズン進出が決まった。これからも続けていこう!」と呼びかけて乾杯。もはや、PS進出を祝うのではなく、チームで大谷を祝福する雰囲気だった。
新天地1年目。昨年9月に右肘を手術したことで、19年に続いて2度目の打者専念となるシーズンだった。54本塁打、130打点で2冠王。打率3割1分と59盗塁もリーグ2位だった。これだけの結果を残せた最大の要因はシーズンを通して離脱がなかったこと。大谷もレギュラーシーズン最終戦後には「1年間しっかりと安定して(試合に)出られたのが自分の中では一番よかった」と振り返った。
二刀流で屈強な体力の持ち主でもある印象も強いが、大きなアクシデントもなくシーズンを駆け抜けたのは21、22年くらい。大谷にとって大切なことは、試合に出続けることだった。今季は試合前に屋外でフリー打撃を一度も行わず、打撃練習をするのは試合開始約1時間前からと、やや控えめのルーチンを確立。試合に出続けることを最優先にして日々の調整をした。ワールドシリーズ第3戦では盗塁を試みた際に左肩を亜脱臼して今季最大の危機を迎えたが、試合中にも温め続けるなど必死の努力で欠場するという選択肢はなかった。
昨季まで、最多が21年の26だった盗塁が59に激増したことも、1年間健康であったことが最大の要因だ。2月のキャンプ中から約300万円の最新機器を使って走力アップに着手するなど、投手の調整、ミーティングがなく、空いた時間を有効活用。毎試合前には首脳陣らとともに、盗塁を中心とした走塁に特化して相手投手の研究をする機会も増えた。時にはマッカロー一塁コーチが気づかない癖を指摘するなど、その分析力はコーチレベルだった。
打撃面でも進化を続けた。今季開始直後には練習にクリケットバットを取り入れて打撃フォームを確認。6月途中からは、打席に入る際にバットを寝かせて本塁ベースからの距離をはかるルーチンを取り入れた。球場によってラインの太さが異なることもある中で、大谷が最も重要視する「同じ位置に立って構える」をより正確にした。シーズン途中まではチャンスの弱さを指摘されることもあったが、終わってみれば自己最多を30も上回る130打点で打点王。これだけの結果を残せば、同僚も自然に大谷の実力、存在を認めざるを得なかった。いつしか、ベッツ、フリーマン、カーショーとMVP受賞歴のある選手もそろう中で、最も注目を浴びる中心選手となっていた。