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池松壮亮、事務所独立から1年「これほど、やらずに済んでいたことがあったのか」…主演映画「本心」8日公開

スポーツ報知 2024年11月7日 11時0分

 俳優の池松壮亮(34)が原作小説にほれ込み、衝動的に映画化を熱望した「本心」(石井裕也監督)が、8日に公開初日を迎える。近未来の日本を舞台にデジタル化社会の功罪を鋭く描き、「AIは人の心を再現できるのか」などの問題を提起するヒューマンミステリー。9作目となる石井監督とのタッグで「俳優の存在意義が問われるような挑戦。俳優人生の非常に大きなターニングポイント」と強い決意で臨んだ。(有野 博幸)

 新型コロナが世界的に猛威を振るっていた2020年夏。池松は平野啓一郎氏(49)の原作に衝撃を受けた。「インパクトが強かったですね。中国映画の撮影で上海にいて、コロナによる2週間の隔離期間になった時に、スマートフォンでウェブ連載を読みました。スマホに広がる世界に『これからどうなるんだろう』と言葉にならない不安が湧き起こりました」

 以前からAIなどデジタル技術に関心を持ち、同時に恐怖も感じていた。「技術が進歩する一方で、失うものもある。個人的な感情で言えば、AIというのは人類が原爆と出会ったことと同じくらいの恐怖を感じる。引き返すことのできない領域に世界が向かっている気がしてしまう」。さらに「あらゆるテクノロジーの先に貧困、自然災害、格差が肥大化している」。そんな誰もが想像できる近未来に当事者として感情移入した。

 原作を読んだ時点で映画化を熱望した。「どういう手順でとかじゃなく、『とにかく映画に…』という抑えきれない感情。まずは、この衝動を共有したいと思って石井監督に連絡しました」。過去8作品でタッグを組んだ盟友の石井監督は、ほぼ即答で「これはぜひ一緒にやりましょう」と快諾。原作を読んでから数か月で映画化のプロジェクトが始動した。

 カメラが付いたゴーグルを装着して「リアル・アバター(現実の分身)」として働く朔也を演じた。朔也は母(田中裕子)がなぜ“自由死”を選んだのか、その“本心”を探ろうとする。「朔也が戸惑っている様子が観客に寄り添っていると思ってもらえたら。実体のある感情を持って、そこに肉体としての実感があるように。演じ手として、仮に観客が物語についてこられなくても、感情で引っ張っていける映画にしたかった」と思いを込めた。

 母親役の田中とは初共演。「以前から尊敬する方で、ご一緒できて喜びしかなかった。撮影中は毎日、驚きと興奮でいっぱいでした」。田中がVF(バーチャル・フィギュア)の母を演じたことで、作品にリアリティーが生まれた。母が生前、親しくしていた三好(三吉彩花)とひょんなことから同居することになる物語は「VFの母と心を通わせて、三好とは生身の人間なのに心の距離がある。皮肉めいていて面白いですよね」

 「本心」というタイトル、作品の内容には、複雑な思いを抱いた。「自分たち俳優も、言ってしまえば朔也のように誰かの言葉を使って、アバターのように演じている存在とも言える。その中で本心を問われても、俳優が本心を持って生きているか返答に困る。俳優の存在意義が問われているような挑戦的な題材だった。これまでの人生、俳優人生を持ち込んで、挑んでいくような、気持ちがあふれているような強いエネルギーを感じていました」

 映画を中心に活動し、映画俳優としてこだわりを持つ。「基本的に映画のことを考えて生きてきました。正直、ドラマのことは分からない。そのぶん、夏のフジテレビのドラマ(『海のはじまり』)は楽しかったですけど」。日本映画を支える一人として「先輩から受け継いでいるという気持ちが強いですね。お芝居だけじゃなく、考え方も、先輩方が可能性を探り続けてくれたから、今この仕事ができている」と先人へのリスペクトを忘れない。

 長年所属した事務所を独立して1年。「基本的な人付き合いとか、社会人1年目の学びをこの年でやっている感覚ですね。俳優業にマネジャー業が追加されて『これほど、やらずに済んでいたことがあったのか』と驚いています」。俳優としても「どう物語を人間に必要なものとして見せていけるのか。答えは出ないけど、考えてやっていきたい。やりっぱなしはよくない」と演じること以上の責任を感じている。

 ◆「本心」 平野啓一郎氏の小説を映画化。「大事な話があるの」と言い残して急逝した母・秋子(田中裕子)が、実は“自由死”を選んでいた。幸せそうに見えた母が、なぜ自ら死を望んでいたのか…。どうしても母の本心が知りたい朔也(池松壮亮)は、テクノロジーの未知の領域に足を踏み入れる。生前のパーソナルデータをAIに集約させ、仮装空間に“人間”を作る技術・VF(バーチャル・フィギュア)で母と再会するが…。122分。

 ◆池松 壮亮(いけまつ・そうすけ)1990年7月9日、福岡県生まれ。34歳。子役として芸能活動を始め、2003年に「ラストサムライ」で映画デビュー。主な出演映画は「宮本から君へ」(19年)、「ちょっと思い出しただけ」(22年)、「シン・仮面ライダー」(23年)、「せかいのおきく」(同)、「愛にイナズマ」(同)など。26年のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」では豊臣秀吉を演じる。

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