俳優の林与一(82)が、東京・三越劇場で上演中の舞台「雪間草―利休の娘お吟―」(鈴木龍男演出、14日千秋楽)で前進座公演に特別出演の形で初参加。入魂の千利休を見せている。
「雪間草」は、海音寺潮五郎の直木賞受賞作でもある「天正女合戦」を原作に、豊臣秀吉の野望にあらがう利休の、その覚悟が細やかに描かれていく。初代中村鴈治郎を曽祖父に持ち、時代劇の経験が豊富な林は、「新国劇、新派も知っていますが、前進座さんとはご縁がなかった。67年の役者人生で初めてです」。
稽古が始まる前は「劇団のカラーに溶け込めるかどうか」と不安も漏らしていた。しかし、初日(8日)のカーテンコールでは「劇団の中にホームステイさせてもらっているよう。芝居にかける皆さんの団結力にはすごいものがあり、驚きました」と無用の心配だったことをうかがわせた。
利休の生涯は謎に包まれた部分があるだけに、いまもさまざまな解釈がなされる。切腹を命じられ、内心は葛藤で渦まいていても林の利休の芝居は壮絶でありながら、澄んで見える。秀吉が胸中を吐露する演出の効果もあるだろう。
「役を演じているときだけではいけないと思い、10月に入ってから聴く音楽も洋物から和物に。朝もコーヒーから煎茶に変えました。どこまで、できるか、不安を和らげるためでもあるんですけれどね」と日常生活から役を意識する時間を過ごしている。
「最初、利休役という話を聞いて一瞬、ピンとこなかった。自分もそんな年齢になってしまったのか、と。でも今回、うれしかった。ひとつの正念場だという思いでやっていますよ」。
利休の娘お吟は、浜名実貴。お吟は父の哲学を受け継ぎ、後世に残す使命を持って生きた。浜名は林との共演を「とてもダンディーな方。大先輩の演技をそばで見られることだけでも、とても幸せです。劇団員の良い刺激にもなっています」と新鮮な気持ちで舞台に臨んでいる。
◇この後の公演スケジュール 17、18日(名古屋・Niterra 日本特殊陶業市民会館・ビレッジホール)、20日(東京・立川たましんRISURUホール・大ホール)、21日(東京・武蔵野市民文化会館・大ホール)、来年1月5~12日(京都劇場)。