11月6日、ステラヴェローチェ(牡6歳、栗東・須貝尚介厩舎、父バゴ)の競走馬登録が抹消された。20年サウジアラビアRC、21年神戸新聞杯と重賞を2勝し、牡馬3冠で3、3、4着。しかし、4歳春に右前脚浅屈腱炎を発症。約1年7か月の休養を経て復帰したが、前走の天皇賞・秋(9着)の後、再発が判明し、現役を引退することになった。
最後に彼に会ったのは、ラストランの2日前。厩舎を訪ねると、うつらうつらしながら、くつろぐ彼がいた。レースでの姿とは対照的に、馬房では穏やか。遠征先でもイレ込むことは少なかった。しかし、キャリア19戦のうち7戦を走った東京競馬場は例外。馬房の雰囲気などが気に入らず、一晩中ソワソワしていたこともあったという。
担当の山田助手は「東京でも落ち着いてくれたらいいねんけど…」と愛馬を見つめた後、「これ、東京にも持っていこうと思う」と馬房の前に置かれた扇風機を指さした。ステラヴェローチェは、この風を浴びて、ぼーっとするのがお気に入り。山田助手は、気温が高くない日でもスイッチを入れてあげていた。ただの暑さ対策ではない。1台の扇風機に、苦手な場所でも落ち着けるように、という担当者の願いと心遣いが込められていた。
レースに向けての話を聞いているとき、山田助手が「雨、降らへんかな」とつぶやいた。不良馬場で挙げた重賞2勝がすぐ思い出され、「道悪は得意ですもんね」と返したが、山田助手の意図は少し違った。「それもやけど、やっぱり高速馬場が怖いから…」。何よりも無事に帰ってきてほしい。その思いが、痛いほど伝わった。
復帰後も、常に脚元を気遣って調整してきた。札幌記念(3着)の際はオーバーワークを避けるため、坂路調教を優先。北海道の競馬場ではなく、直前まで外厩に滞在する“10日競馬”で挑んだ。不安と付き合いながらでも今年、大阪城S・リステッドを勝ち、大阪杯では0秒1差の4着。復帰すら難しいと言われる屈腱炎を乗り越え、G1で上位争いをするのは、並大抵のことではないだろう。
ステラヴェローチェの馬房近くの壁には、ファンからの贈り物がたくさん飾られていた。手紙、お守り、子供が描いた絵、手作りのぬいぐるみ…。力強い走りと不屈の精神で多くのファンを魅了し、また多くのファンに愛された証の一つだろう。新しいステージでも、どうか健やかに、穏やかに日々を過ごしてほしい。(中央競馬担当・水納 愛美)