大相撲九州場所7日目(16日、福岡国際センター)
東前頭11枚目・玉鷲が40歳の誕生日を自ら祝う快勝劇を見せた。昭和以降6人目の“不惑幕内力士”となったベテランは、同9枚目・翠富士の立ち合い変化にも惑わされず、力強く押し倒し。4勝3敗で白星先行となった。大関・豊昇龍と平幕の阿武剋(おうのかつ)がともに敗れ、全勝が消えた。1敗で大関・琴桜、豊昇龍に平幕の隆の勝、阿武剋。2敗で新大関・大の里ら8人が続く展開となった。
40歳の記念日に勝利を手にした瞬間、大歓声と万雷の拍手が玉鷲に注がれ、数多くの祝福メッセージボードなどが揺れた。「土俵入りの時にお客さんから『誕生日おめでとう』と言われて本当にうれしかった。長くやってきて、つくづく良かった」と感慨に浸った。
19年初場所と22年秋場所で優勝経験のある実力者は“不惑”を迎える中でも若々しい取り口を見せた。立ち合いで翠富士が左に跳んだが動じずに対応。強烈な右のど輪で相手を背中からたたきつけた。「本当に良かった。自分へのいいお祝い」と笑顔。「『20歳くらいの気持ちで、若々しい相撲を取っているね』と言われるのが一番うれしい」との言葉を体現した。取組後にはNHK中継のインタビュールームへ。異例のことに「初めて年齢のことで呼ばれた」と目を丸くした。
40代幕内は昭和以降6人目。生来の素質に加え、基礎運動をコツコツ。2人同時に相手した稽古など工夫を凝らし、頑丈な体を作ってきた。師匠の片男波親方(元関脇・玉春日)は「感性で取っていて、相撲の概念にとらわれずにやっていることが、続けられる要因。すごい」と舌を巻く。同じモンゴル出身で、1958年の年6場所制以降では最年長40歳10か月まで幕内に在位した大島親方(元関脇・旭天鵬)は「まだまだいける」と太鼓判を押した。
八角理事長(元横綱・北勝海)は「立派だ。体の張りもある。気持ちが強い」と賛辞を贈った。玉鷲は九州の宿舎を構える福岡・朝倉市を第2の故郷とする。師匠によると、誕生日は地元の人と一緒に祝うのが恒例という。玉鷲は「勝てて感謝の気持ちを送れた」と安どした。「玉鷲が新しく化けて、人間の体がここまで成長するんだというところを見せたい。三役に戻りたい」と力を込めた。40代の三役となれば戦前の能代潟に続き、昭和以降2人目となる。快挙に向け、まだまだ情熱は衰えない。(三須 慶太)