アストロズからFAとなった菊池雄星投手(33)が自らプロデュースした、世界最先端の機器やコミュニケーションスペースを備えた屋内複合野球施設「King of the Hill」(KOH)のオープニングセレモニーが17日、岩手・花巻市内で行われた。母校・花巻東に隣接する約1400平方メートルの立派な施設が完成。決して安くはない私財を投じ、故郷・岩手の子供たちの成長を願う雄星の姿を、西武時代に番記者を務めた加藤弘士編集委員が「見た」。
すげえな。本当に造っちゃったんだ。雄星がテープカットした瞬間、私の胸に熱い思いが込み上げた。施設名は「King of the Hill」。丘を意味する「Hill」はマウンドのことで、MLBではエースをこう呼ぶ。
「米国で学んだことや日本での経験を生かして、地域に貢献したい思いがありました」。自費を投じた理由を説明した。
雄星が西武の1軍ローテに定着した22歳の頃の話だ。遠征先で焼き肉を食べながら、互いの夢を語り合った。
「引退したら、地元に居酒屋と室内練習場を建てたいんです。居酒屋には仲間が集まって、おしゃべりして。室内なら雪が降っても、子供たちが好きなだけ練習できるじゃないですか」
私は「居酒屋はともかく、室内はお金がかかりそうだね」と返した。11年後の姿を想像できなかった。
総額1億ドルという古巣ブルージェイズの春季キャンプ施設に着想を得た、最新鋭の設備。広い施設内には、ブルペンも打撃レーンもあり、投打の詳細なデータを計測できるトラックマンなども設置した。「一緒の機器が入ります。科学の進歩でいろんなデータが出せる」。
また、居酒屋…ではなくカフェテリアを作り、地域イベントでも使えるようにした。ベーブ・ルースやルー・ゲーリッグのサインボールといったお宝も展示されている。「自分で全部集めました。ワクワクする場所にしたかった」。オフには自身も練習拠点にする。
地元を大切にするのは、19年3月31日に天国へ旅立った父・雄治さんの教えでもある。「最後に会った時、『アメリカで活躍しても、岩手の皆さんを大切にしてね』と。それがずっと頭の中にあって」。男と男の約束。しっかり守った。
33歳にして、岩手の子供たちのために大仕事をした。「第2の佐々木麟太郎を輩出したい」。続々とスターが現れるIWATE。KOHを通じて今後、どんな逸材が生まれるだろうか。(加藤 弘士)
◆主なプロ野球選手の施設
▽落合博満記念館 和歌山・太地町に1993年開館。日本初のプロ野球選手個人記念館。別荘も隣接され、自主トレも行われた。
▽松井秀喜ベースボールミュージアム 石川県能美市に94年開館。旧称は「松井秀喜 野球の館」。05年のリニューアルに合わせて改称。思い出の野球用具などが展示されている。
▽筒香スポーツアカデミー 23年12月に現DeNAの筒香嘉智が私財2億円を投じ、和歌山・橋本市に完成。両翼100メートル、内外野が天然芝の球場とサブグラウンド、室内練習場が完備。
◆最新鋭機器が完備されたKOH 2人が同時に投げられるブルペンと、2人が同時に打てるバッティングレーンを備えるほか、投球の軌道や回転数を計測する「トラックマン」や「ラプソード」、ハイスピードカメラを導入し、選手の動作やパフォーマンスを分析。第一線で研究する専門家を招き、指導法の開発や実践を進めていく。疲労回復のためにサウナルームも完備されている。12月に開講する野球スクールには既に約100人の小中学生が申し込んでいるという。
◆ブルージェイズのキャンプ施設 フロリダ州ダンイーデンにあり、21年に約1億ドル(約156億円)をかけて改修されて完成。6つのグラウンドがあり、ブルペンのマウンドは20、打撃ケージは12ある。さらに動作解析を行うラボ、広大なウェート室、深さを変えられるプールなどが備えられ、ロッカールームもマイナーチーム3チーム分、メジャー用と4つがある。昨年12月には、FAで各球団と面談をしていた大谷が、同施設を訪れたとも現地で報道された。