◆大相撲九州場所 11日目(20日・福岡国際センター)
東前頭6枚目・隆の勝が新大関・大の里を撃破し、1敗と首位の座を堅持した。7月の名古屋場所では優勝決定戦まで進出したが、惜しくもV逸。一年納めの土俵で悲願の初賜杯をつかむべく、さらに勢いを増していく。大の里は初の連敗で4敗目を喫し、優勝争いから大きく後退した。琴桜、豊昇龍の2大関を加えた3人がトップで並ぶ構図は変わらず。2敗がいなくなり、3敗で平幕の若隆景、阿炎ら5人が追う。
隆の勝の勢いが新大関をものみ込んだ。大の里得意の右差しを嫌い、立ち合いは左にずれながら当たった。すぐさま強烈な右のど輪で192センチ、182キロの巨体をよろめかし、休まずもろ差しで突進。最後は押し出した。愛きょうある顔立ちでついた愛称「おにぎりくん」は、「組まれないこと、押し負けないことを意識していたので、流れ的によかった」と満面の笑みだ。
心の成長が躍進を支える。184センチ、171キロの恵まれた体格を誇るが、これまでは思うような結果を残せなかった。緊張しやすい性格で、本場所の大観衆の前では真価を発揮できず。周りからは「稽古場では強いね」と言われてきた。それでも、新型コロナ禍で無観客開催の20年春場所では優勝次点の12勝を挙げるなど、能力の高さは本物だった。
そんな中、今年7月の名古屋で横綱・照ノ富士との優勝決定戦に進んだ。「あそこで力を出せたのが自信になった。一段と強くなった」と大舞台で惜敗した悔しさが転機に。「今は初めて冷静にできている実感がある。土俵だまりのお客さんが見えるくらい。有名な人がいたなと気づくこともある」。土俵下では対戦相手の顔つきで心情を感じ取ることもあり、落ち着きが好結果につながっている。
2大関に並ぶ1敗をキープし、優勝争いの先頭を走る。優勝4度の湊川親方(元大関・貴景勝)が先場所限りで引退。部屋頭となり、精神的にもたくましくなった。「(優勝パレードの車は)自分も旗じゃない方に乗りたいなと強く思っていた」。何度か務めた旗手ではなく主役へ。30歳の元関脇が進化を遂げる。(大西 健太)