女優の吉高由里子が主演するNHK大河ドラマ「光る君へ」の第46回「刀伊の入寇」が12月1日に放送される。
大石静氏が脚本を手がけるオリジナル作品。大河ドラマではきわめて珍しい平安時代の貴族社会を舞台に、1000年の時を超えるベストセラー「源氏物語」の作者・紫式部/まひろの生涯に迫る。
24日に放送された第45回「はばたき」では、まひろの書く「源氏の物語」がとうとう脱稿。娘の賢子(南沙良)を太皇太后・彰子(見上愛)に仕えさせ、まひろ自身は長年の夢だった旅に出る決意を固める。必死に引き留める道長(柄本佑)と決別し、まひろは須磨や明石、そして太宰府へと向かう。道長は出家する一方、まひろは越前で出会った周明(松下洸平)と太宰府で再会する―という展開が描かれた。
「源氏の物語」を書き終え、万感の思いで涙ぐむまひろ。第54帖「夢浮橋」は、宇治十帖におけるヒロイン・浮舟が、主人公の薫からの文を拒絶する―という、物語的には決して区切りとは言いがたいところで終わる。源氏物語の結末をめぐっては「本当は続きがあるのでは」など現在でも諸説あるのだが、「光る君へ」での解釈としては、道長に別れを告げ自由な旅に出ようとするまひろの心境にリンクする形に。こういう描き方もあるのだなあと感心する。
道長に別れを告げたときのまひろの鋭いせりふの連続にはしびれた。かつて、敦康親王(片岡千之助)が彰子(見上愛)の御簾(みす)を超えたときには怒りをあらわにしていた道長。自身はやすやすと御簾を下ろし「行かないでくれ」と懇願するが、まひろは、感情的になることなく次々と言い放つ。
「これ以上、手に入らぬお方のおそばにいる意味は何なのでございましょう」
「道長様には感謝申し上げてもしきれないと思っております。されど、ここらで違う人生も歩んでみたくなったのでございます」
「私は去りますが、賢子がおります。賢子はあなたさまの子でございます」
賢子の出生の秘密を知った道長だが、そのことはいったん置いておいて「お前とは…もう会えぬのか?」とまひろに食い下がる人間らしさも実に生々しい。「会えたとしても…。これで終わりでございます」。これこそ、物語を終わらせることができる人の絶ち切り方である。ここまでの覚悟を告げられれば、道長が出家する決断に至ったのもやむなしとなるかもしれない。
道長の出家シーンは圧巻の一言だった。約2年もの間伸ばした地毛を切り落とすカットにリアリティーが宿る。道長役の柄本佑の取材会の内容が先日公開されたが、剃髪シーンは「不思議体験でした」と回想していた。髪を落とすことで柄本自分と道長が溶け合っていく。あの涙は何を思っているのだろうか。まひろと道長の人生の矢印は、再び違う方向に動き出した。
シーン順は前後するが、まひろが須磨の砂浜をひた走る場面は、いろいろな感情から解き放たれた思いが爆発する、思いのこもった描写だった。SNSでは須磨周辺にお住まいの方たちのご意見として、まひろの思いを表すのならば「西から東」ではなく、旅路の方角である「東から西」に走るべきだったのでは? という投稿がちらほら散見され、目からウロコだった。制作に意図があったのは分からないが確かに「東から西」のほうがしっくりくる。ただ一方で、本心は道長に向かっている―とも受け取れるのか?と考えたりもした。視聴者のみなさんのご意見も大変参考になっております。
さて、視聴者もまひろとともに旅に出る第46回。亡き夫・宣孝(佐々木蔵之介)が働いていた太宰府に到着したまひろは、周明と再会し、越前で失踪した真実を打ち明けられる。その後、通訳として働く周明の案内で、政庁を訪ねるが、鍛錬中の武者達の中に、双寿丸(伊藤健太郎)を発見する。さらに大宰権帥の隆家(竜星涼)からは、道長からある指示を受けたと告げられる。そんな中、国を揺るがす有事が…という展開となっていく。
サブタイトル通り、ストレートに「刀伊の入寇」。ここまでの「光る君へ」が歩んできた有象無象の道のりを全部抱きしめながらここまで見続けてきたひとりの視聴者として、圧倒的な物語の推進力にただただ正面から食らってしまった。「みどころコラム」を書きながら何もみどころを語らないというのはどこか矛盾しているが、今回ばかりは余計な先入観など排除して受け取ってほしいので、とにかく見てもらえたら。それしかない。(NHK担当・宮路美穂)