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大石静氏「光る君へ」のチームに感謝 まひろ&道長ラブシーン反響には驚きも「2人が突出してすてきだった。私の手柄ではない」

スポーツ報知 2024年12月1日 20時45分

 NHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜・後8時)の脚本を手がけた大石静氏がこのほど取材会を行った。

 「源氏物語」の作者・紫式部/まひろ(吉高由里子)を主人公に、平安の貴族社会を映し出す意欲作。大河ドラマは2006年の「功名が辻」以来2度目だが、視聴者的にもあまりなじみのない平安時代を描ききったことについて「1000年前の日本のできごとを知れたことは素敵なことだったなと思います」と語る。「もちろん紫式部も『源氏物語』も知っているけど、これがなかったら『源氏物語』をここまで読むってことはなかったでしょうし、摂関政治のなんたるか、とか、道長の生き方とか…。知らないことを知るという喜びもこの大河にはあったのではないか、と思います」

 大石氏は、今回の「光る君へ」のキャスト・スタッフを「私たちのチーム」と表現する。「ドラマはみんなで作るもの。だから制作統括の内田ゆきさんとか、チーフ監督の中島由貴さんとかみんなと会議して『ここを狙うぞ』っていうのは私ひとりで書いてるわけじゃなくて、みんなに共通した価値観で、どういう価値観を出すかということは常に確認していました」

 例えば、ここまでは歴史の授業などで尊大な道長の象徴ともされてきた「望月の歌」。大石氏は「歌に対する解釈はいろいろあるんです。でも当時の実資の『小右記』には、道長を腐すことは一切書かれていない。『太閤は大変機嫌が良く、歌を読んでみんなで唱和した。月が綺麗であった』っていうことしかない」と意図を明かす。「道長は表面だけ見ると3人の娘を后(きさき)にして絶頂ですが、うちのチームのオリジナルとして娘たちはみんな父に批判的である。私たちのチームは、そういう虚しい気持ちを抱きながら『今日だけはいい夜だと思いたい』という気持ちで書きました」

 大石氏は「すべての人はむなしい人生を生きていると思う」と鋭く指摘する。「もちろん、瞬間で素敵なことはあるし、それに励まされてもいるわけだけど、基本はむなしいですよね。道長のような頂点に立った人こそむなしいだろうし、紫色部の書いた物語も『人は本当にむなしい』ということを描いていると私は思います」人間の抱えるむなしさが心のどこかで通じ合い、だからこそ2人はひかれ合っていく―そんな望月の夜だった。

 ことさらまひろと道長のラブストーリーの描写も話題となった「光る君へ」だが、当の大石氏自身は「ラブシーンで別に心を砕いた点はない」と話す。「まひろと道長のシーンは全体の5分の1ぐらいで、物語はほとんど内裏の政争を描いている。私たちのチームは『ラブシーンを増やそう』というつもりは全くなかったんですが、図らずもあの2人があまりにも突出してすてきだった」と想像以上のインパクトがあったという。

 「超絶すてきですよね。芝居の相性もすごくいいし、あの2人が醸し出すラブシーンのすごさっていうのは、他の組み合わせではあまり醸し出せないものを出しているので、あまり私の手柄っていう感じもしないです。ただ、私の作品で突然、二枚目になる人がいるなとは思います(笑)。男性って意外と心の二枚目の人がいますもんね…」

 まひろが道長との不義の子を宿すという展開もオリジナルの設定。「『源氏物語』はそもそも密通の物語。藤壺と光源氏、柏木と女三の宮。最後も匂宮と浮舟という世代を超えた密通がある。密通(のアイデア)は割と最初の頃からとか話してもいまして『主役だしなあ、どうかしら』という意見もあったけど、あるときに内田さんが『やっぱり密通しましょう』ってなった瞬間を私は覚えている。私は最初からそう思っていたけど、内田さんが決意して『ああ、やっていいんだな』と思った日のことを覚えています」

 チームで価値観を共有しながら進んできた「光る君へ」。清少納言/ききょう(ファーストサマーウイカ)が「枕草子」を誕生させる姿を四季のうつろいとともにセリフなしで描ききったシーンや、「源氏物語」を思いついたまひろのもとに天啓のように書や物語が降り注ぐ美しい演出は視聴者からも「大河ドラマ屈指の名シーン」との反響を集めた。

 「素晴らしい演出をしてくれて、感動的な『枕草子』『源氏物語』誕生になりました。今まで彼女が読んだ漢文や『蜻蛉日記』だとか、いろいろなものの知識が降ってきて生まれるところも、目で見てわかる世界を、監督が見事に作ってくれた。みんなで作った『源氏物語』の誕生だと思います」

 キャスト・スタッフのものづくりへの熱が自分の脚本を飛び越えて、さらに物語として羽ばたく瞬間。「2話で代筆をしているまひろに、川べりで道長が『歌はいらぬ』って言って去る演出。4話の五節の舞のドローンショット。6話で、道兼が『俺たちの影は同じ方を向いている』っていうセリフのときの影の演出にはしびれましたし、漢詩の会が立体的になるとこうなるんだ、と思いましたし…」。目の前に映像が映し出されているように、いとおしいシーンが次々に飛び出してくる。

 「10話の廃邸で初めて結ばれて『人は幸せでも悲しくても泣くのよ』と話すところ。16話でまひろの看病をする道長。21話の枕草子誕生の演出で、定子が読んでいるのを発見した清少納言、普通の感覚なら寄りで撮りますけど、引きの素晴らしい演出。34話、みんながいろんなところで『源氏物語』を読んでいるシーンのつながり…。壊れていく伊周の芝居。三浦翔平くんは本当に頑張ったと思います。42話の、何もかも嫌になった道長とまひろの宇治のシーン。そこも本当に素敵でした」

 一丸となって駆け抜けたチームへの信頼は厚い。「吉高・柄本のお2人が本当に穏やかで、イライラするところを絶対に見せないし、こんなに良いチームはないと思います。美術チームの圧巻のセットや、あの衣装が『ここで生きるんだ』みたいな感じを与えてくれた。これに負けない本を書かなきゃいけないっていう逆プレッシャーでもありました」

 1日の放送では、旅で太宰府を訪れたまひろが「刀伊(とい)の入寇(にゅうこう)」に直面する姿が描かれ、平安の世から武士の世に移り変わる予感を感じさせた。

 「元寇の前哨戦のような『刀伊の入寇』。隆家(竜星涼)が大宰権帥になって、あの人は若いときから武闘派なので、地元の人たちを組織して撃退する。やっぱり武力を持たなければ国も守れないし、民も守れないという考え方が出てきますよね。まだ朝廷はそれに気づかないけれど、地方を統一していくためにはやっぱり武力が必要だってなってきて、そういう時代になっていく。時代が変わるなっていうことは見ている方にも感じていただけると思います。武士の時代を感じさせて終わろうっていうのは、最初の方から決めていました」

 残すところあと2回となった「光る君へ」。書き手としても没頭して切らさずに進むことができた。「最終回はもっとやりたいことがいっぱいあって、あと3本ぐらい欲しかったっていう気持ちが強かった。書くことがもうないとか、難しいってことはなかった。やり残したことはないですね」とキッパリ。「書いている時は『終わったら、今年いっぱいは何もしない』と決めていたけど、実際3日ぐらい寝てみると、全然幸せじゃない(笑)。やっぱり私は何かやっていないとダメなんだ、と…」とエネルギッシュに語った。

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