将棋界初の「女性棋士」を目指す西山朋佳女流三冠(29)=白玲、女王、女流王将、=が17日、大阪・関西将棋会館で指されたプロ棋士編入試験五番勝負第4局で、後手の試験官・宮嶋健太四段(25)に95手で勝利し、2勝2敗のタイに戻した。第5局は来年1月、柵木幹太四段(26)が試験官を務め、勝利すれば合格となる。
夢へ、望みをつないだ。西山の背はしゃんと伸び、駒を進めるその手に、迷いはなかった。目の前に座る試験官が背を丸め、投了を告げた。
「とにかく悔いのないように指せればいいなと思っていました」
表情を変えずに振り返った西山は、感想戦が始まるとほっとしたように、笑みをこぼした。
カド番で負ければ不合格だった西山は、唯一白星をつかんでいた第1局と同じ三間飛車を選択。角、飛車の大駒を交換し合う西山らしい華やかな展開の将棋になると、徐々にリードを広げていった。宮嶋の1筋の攻めに対しては「悲観していた。急に景色が悪いのを感じていました」と危うい場面もあったが、最後は力強く踏み込み、寄せ切った。試験官の宮嶋は「私の内容がちょっとあまりにもよろしくなかった」と肩を落とした。
心身ともに整っている。9月末に新型コロナ感染を発表後、しばらく味覚が戻っていなかった。11月に味覚が戻り「おかげさまで、今は元気です。食欲が止まらなくて逆にちょっとやばいんですよ(笑)」と明かし、焼き肉を生き生きと食べる姿もあった。
女流棋戦では11月から7連勝中。第5局の試験官・柵木は奨励会時代、西山に5勝0敗。大一番の相手が“西山キラー”となるが「独特の空気感の中での対局ですが、自分の全力が出し切れるように日々を過ごすしかない」と万全の体調で臨む。
20年の棋士養成機関「奨励会」第66回三段リーグでは上位2人がプロ入りする制度の中、3位。一歩届かなかった過去を持つ西山に再び、チャンスが目の前に来た。
「もう一番、泣いても笑っても最後。本局も要所であまり良い手を指せなかったところはあると思うので、しっかり反省して、最後、悔いのないように挑みたい」
女性初の棋士まであと一つ。夢まであと一歩。西山が誰も開けたことのない扉をこじ開けにいく。(瀬戸 花音)
◆プロ棋士編入試験 05年に特例で実施され、アマとして活躍した瀬川晶司六段が合格した翌年、正式に制度化された。現在の試験制度は棋士番号の若い新四段5人を試験官とする五番勝負。5局中3勝で合格となり、順位戦フリークラスへの編入資格を得る。現行制度の編入試験を受けるのは5人目。女性では不合格だった福間香奈女流五冠(32)に続いて2人目。これまで、14年に今泉健司五段、20年に折田翔吾五段、23年に小山怜央四段がそれぞれ合格している。