肩とブロッキングは天下一品。巧みなインサイドワークでも投手を助ける。打点43はチーム4位で、規定打席未達ながら打率2割5分6厘はリーグ14位相当と、打撃も非凡。試合開始直前、本塁付近を指で「心」となぞるしぐさが何ともカッコいい。そんな球界NO1捕手が甲斐だ。
口さがない外野からは、「海野との併用がイヤで移籍するのでは」と邪推する声も聞こえる。それならわざわざ、岸田、大城、小林らがひしめく巨人に行く理由がない。ではなぜか。答えは「勉強」だ。「現役が終わるまで勉強だし、引退しても勉強。今後、どういう勉強をしたいのかを自分に問いかけたい」。常々そんな言い回しで、他球団のユニホームを着ることを否定してこなかった。
自主トレでは、野球系YouTubeで活躍する“ビタ止め”こと捕手コーチの緑川大陸(ひろむ)氏を招いてフレーミングの「勉強」。正捕手のさらなる成長ぶりを見た球団が、緑川氏を今秋キャンプで「キャッチングコーディネーター」として招いたほどだ。
振り返れば、小久保裕紀監督(巨人から復帰)、城島健司会長付特別アドバイザー(マリナーズ移籍)もそう。正捕手に抜てきしてくれた工藤公康元監督(西武からダイエー、ダイエーから巨人)、10年育成ドラフトの同期で20年最優秀バッテリー賞でも相棒の千賀滉大(メッツ移籍)も、FA移籍で「勉強」する道を選んだ。野球人として視野を広げた成功例を間近で見てきたことと、今回の選択は無関係でないだろう。
演技力も「勉強」したかのようだ。九州出身で、チームのユニホームスポンサーでもある注文住宅販売会社「昭和建設」(福岡・久留米市)のローカルCMにも出演している。ベランダでパンケーキに舌鼓を打ちながら「甲斐的」(「快適」との掛け言葉)と笑顔を見せる芝居は、アスリートっぽくなく自然体。このCMを来季も見られるかは微妙になったが、さらなる「勉強」でソフトバンク同様、巨人も黄金時代へと導くことだろう。(ソフトバンク担当・田中 昌宏)