新日本プロレスのIWGP世界ヘビー級王者・ザック・セイバーJr.がこのほど、スポーツ報知の取材に応じ、来年1・4、1・5東京ドーム2連戦への思いを激白した。
今年は、8月に真夏の最強決定戦「G1クライマックス」で初優勝。史上2人目の外国人として制覇する偉業を達成した。そして10月に内藤哲也を破りIWGP世界王座を初奪取。2度の防衛に成功し1・4東京ドームのメインイベントで海野翔太の挑戦を受ける。さらに1・5ドームでは、AEWのリコシェと対戦する。「G1」制覇、IWGP奪取、そして初のドームでのメイン…これまでの夢を一気につかんだ英国出身の37歳。プロレス人生最大の2連戦を目前に控え、プロレス哲学、海野への思いなど赤裸々に告白した。スポーツ報知ではプロレス界のトップに立つザックの言葉を3回に渡り連載する。2回目は王者が考える「新日本プロレスイズム」「アントニオ猪木」「ストロングスタイル」。
8月の「G1」初優勝。10月の「IWGP世界ヘビー級」奪取。新日本プロレスの頂点に立ち、それまでと見える景色は劇的に変わった。トップに立ち、心境はどう変化したのか?
「ザック・セイバーJr.は、それまでも人気があったし成功したプロレスラーだった。だけど『あと一歩だった』とか『ザック・セイバーJr.って勝てるのかな?』って言われるタイプだったと思う。でも、そんな壁をG1が乗り越えさせてくれた。G1は日本のプロレス界でタイトルマッチ以外で特別な大会。トーナメントって例えばサッカーなら人々は、毎週見なくても4年に1回のW杯は見ますよね?そして、そこでワクワクする。G1ってそれと同じ。タイトルマッチより難しいと言われ、注目もある中ですべての試合でタイトルマッチと同じレベルでの戦いになる。G1は、世界中のどのプロレスと比べても最高峰なんだ。そして優勝して僕のマインドは変わったよ。『僕はプロレスラーだ』と堂々と言えるし『僕はトップに君臨できる』という自信を芽生えさせてくれた」
そして、エースの自覚を打ち明けた。
「多くのトップレスラーがいる中で新日本プロレスのプロレスラーとしてここから僕が真のトップであることを発言し、体現しないといけないんだ。これからは、そういう立場になっていくよ」
1972年3月に旗揚げし日本で最も伝統があり、人気を獲得している団体が新日本プロレスだ。ただ、50年を超える歴史の中で「外国人レスラー」がエースだった時代はない。私が考える「エース」とは最高峰のベルトを巻く強さだけでなく団体が主催する全戦に出場しあらゆる会場で観客を動員する責任を持つ存在。文字通り団体の看板を背負うレスラーを意味する。外国人としてトップ団体を率いる障壁はあるのだろうか?
「GIでもIWGPでも(トーナメント戦の)NJC(ニュージャパンカップ)でも過去に外国人チャンピオンはいました。外国人だから日本でサクセスできないことはないと思います。だからプロレスに関しては(障壁は)あまり感じてません。努力すれば報われると思ってます。ただ、もしかすると外国人選手で何かあるとすれば、日本に住んでいない人は不利かなと思います。でも、僕は日本に住んでいるから、こうやってメディアのインタビューもすぐに受けられるし、他の外国人選手は住んでいないからこういうこともできない。常にファン、マスコミと厚いコネクションを築くことがサクセスにつながっていくと思います。新日本プロレスは現在、今までよりも国際的に視線を向けているけど、日本の団体です。日本が最優先であるべきだと思っています。だから外国人選手で新日本プロレスの顔になりたい、リーダーになりたいと思うと海外在住の選手は難しいかもしれません」
日本のプロレスは、選手個々のプロレスへの考え、哲学、イズム。そして団体の歴史に敬意を抱いているファンが海外のファンと比べて多いと思う。この見方を「どう捉えるか?」と尋ねると「絶対そうだと思う」と即答した。そしてザックが考える「新日本プロレスイズム」を聞いた。
「Authentic(オーセンティック)。つまり『本物』であるべき。それぞれのレスラーが自由に自分のビジョンを描くとしてもオーセンティックであるかどうかがすごく重要だ」
本物とは?
「それは、長期的に活躍できることです。新日本プロレスには、50年以上の歴史があります。アップダウンがありながらも、ずっと継続しています。そして日本のファンは敬意をもってプロレスを見ています。特に名前を挙げませんが米国のテレビ番組でプロレスを扱う時は、目もあてられない、バラエティみたいな内容もあります。しかし、新日本プロレスは、テレビも(動画サイトの)新日本プロレスワールドで放送される我々の試合をファンはリスペクトしています。例えば、日本で『僕はプロレスラーなんだ」』と言うと『凄い!』って驚く人はいますが、バカにする人はいません。英国でも僕がプロレスラーとわかると『珍しいけど凄いね』ってリスペクトしてくれます。ところが、米国で『プロレスラーなんだ』と話すと『そうなんだ。で、仕事は?』って聞かれる(苦笑)。その時に僕は『だからプロレスラーなんだよ』って答えるんだけどね(笑)。そういう体験からも日本は、環境的にファン、メデイア、プロレスラー…すべてがプロレスを見せることに敬意を持っている」
新日本プロレスの「イズム」を語る上で原点である創始者の「アントニオ猪木」は、避けては通れないと思う。ザックにとって「アントニオ猪木」は、どんな存在なのだろう。
「プロレス界というより、すべてのジャンルを超えて日本人の中で最重要人物の1人だと思う。プロレス界にとって究極的に言えば日本のプロレスのインフラを整えてくれた方だと思います。歴史を振り返ってなぜ、日本でプロレスが敬意をもたれているかというと、僕はこう思う。戦後、日本が大変な時に…勝者こそが強者である現実…日本に誇りを取り戻し復興することにプロレスが大きく貢献したと思います。それは、力道山先生から猪木さんが継承した魂がそうさせたと思う。そして、他のスポーツもそうだけど、みんな選手は努力をするんだけど、ジャンルが繁栄するためには猪木さんのような自然発生的なスターって必要だと思う。それは、スキルだけでもダメで努力が報われることを体現した人でもあった。僕の中では、ストロングスタイルってそういうことだと考えています」
ストロングスタイルへの考えをこう明かした。
「僕にとってストロングスタイルとは、プロレスは強いっていうことです。プロレスラーが強いんじゃない。プロレスが強いんだ。近代のMMAもそう言うけど、日本のプロレスがなければあれもなかった。そのプロトタイプを作ったのも猪木さんなんだ」
「プロレスは強い」。猪木は、「最強」を証明するためにプロボクシング世界ヘビー級王者のムハマド・アリらとの異種格闘技戦へ打ってでた。平成時代には中邑真輔が総合格闘技が台頭した時期にボブ・サップへ「一番、スゲェのはプロレスなんだよ」と言い放った。ザックもその流れを受けていると聞くと「そうです。桜庭(和志)さんも(1997年12月の)UFCジャパンで『プロレスラーは強いんです』って言いましたよね」と即答した。日本のプロレス、格闘技の歴史への敬意、憧憬を常に抱いているからこその言葉だった。
「ティーンエイジャーの時から『プロレスラーは強い』という思いはありました。ただ、日本のプロレスに出会ってなければ、戦っていなければ、その考えは確固としたものにはなっていなかったかもしれません。だからこそ日本にいたいんです。UKレスリング始めたときも同じ仲間は、米国ナイズされて変わっていきました。そうするとみんな『WWEへ行きたい』となった。でも僕はフルタイムで米国へ行くつもりはありません。自分のキャリアは日本にあるべきだと思っています」
(敬称略。福留 崇広)
◆1・4東京ドーム全対戦カード
▼IWGP世界ヘビー級選手権 60分1本勝負
王者・ザック・セイバーJr. vs 挑戦者・海野翔太
▼スペシャルシングルマッチ 30分1本勝負
内藤哲也 vs 高橋ヒロム
▼IWGP GLOBALヘビー級選手権 60分1本勝負
王者・デビッド・フィンレー vs 挑戦者・辻陽太
▼IWGPジュニアヘビー級選手権 60分1本勝負
王者・DOUKI vs 挑戦者・エル・デスペラード
▼NEVER無差別級選手権
王者・鷹木信悟 vs 挑戦者・KONOSUKE TAKESHITA
▼棚橋弘至ファイナルロード・ランバージャックデスマッチ
棚橋弘至 vs EVIL
▼NJPW WORLD認定TV選手権3WAYマッチ
王者・成田蓮 vs 挑戦者・ジェフ・コブ、大岩陵平
▼IWGP女子選手権 60分1本勝負
王者・岩谷麻優 vs 挑戦者・AZM
▼IWGPジュニアタッグ選手権4WAYマッチ
王者組・KUSHIDA、ケビン・ナイト vs ロビー・イーグルス&藤田晃生、TJP&フランシスコ・アキラ、クラーク・コナーズ&ドリラ・モロニー