「明らかに抜いているように見えたから。10年早いって」。就任1年目で巨人を4年ぶりリーグ優勝に導いた阿部監督の印象に残っているコメントだ。
7月27日のDeNA戦(横浜)。3回2死一、三塁、先発・井上が佐野への初球、捕手の外角へのボール球要求に140キロの速球で外した直後だった。ベンチ内の杉内投手チーフコーチに鬼の形相で「10年早いって言ってこい!」と伝言を託し、タイムを取ってマウンドに向かわせた。気合を入れ直した左腕はピンチを脱し、6回1失点で4勝目。この試合をきっかけに後半戦は5勝1敗、防御率1・94の好成績を残した。
昨年まで通算1勝の井上は今季、敗戦処理からのスタートだった。5月12日のヤクルト戦(神宮)、救援登板もイニング途中に走者を残して交代。ベンチを出て、いつも通りマウンドに向かった指揮官は途中で井上に向かって大声を出した。「俺が行く前にベンチに帰り始めたからさ。何、自ら先にマウンド降りてんだって伝えて。次の投手に『すみません!』とか言ってからじゃないのかって」。チームプレーの中で投げること以外に大切なことも伝えて成長を促してきた。
その後、先発のチャンスを与え、好投しても「俺は井上には厳しいから」と褒めず、愛情たっぷりにベースカバー忘れを指摘するなど刺激を与え続けた。井上は厳しく接してもシュンとせず、糧にしようとするタイプだと見抜いていたのだ。「期待しているからこそなんだよね」。アメとムチを使い分け背中を押した。
2軍監督時代から指導する23歳左腕への思いは強い。優勝争いの中で先発ローテに定着して8勝。シーズン後「将来できると思っていたけど、こんなに早くできるとは。うれしいよ。あとは謙虚さ、素直さを忘れないことだね」と喜び、さらなる飛躍を願っていた。
LINEの「読売ジャイアンツ阿部慎之助スタンプ2024」には「感謝」や「了解」、「最高です」とともに、あまり使う機会はないが「10年早い」のスタンプがある。来季の井上が阿部監督に「10年早い」と言わせない投手に大きく成長できれば、先発陣はさらに強固になるだろう。(巨人担当・片岡優帆)