新日本プロレスの海野翔太がこのほど、スポーツ報知の取材に応じ、来年1・4東京ドームで挑むIWGP世界ヘビー級王者・ザック・セイバーJr.への思いを激白した。
27歳の海野は、1997年4月17日、レッドシューズ海野レフェリーの次男として東京都世田谷区に生まれる。17年4月13日に新日本プロレスでデビュー。19年11月から英国へ武者修業。3年間の海外生活を経て22年11月5日にエディオンアリーナ大阪大会で凱旋帰国する。今年5月11日には米国オンタリオ大会でジョン・モクスリーが持つIWGP世界ヘビー級王座に初挑戦するなどトップ戦線に駆け上がってきた。
今年の「G1クライマックス」でザックに勝利するなどの実績を引っ提げIWGP世界ヘビー級王座への挑戦を表明。1・4東京ドームでの一騎打ちをもぎ取った。ここで勝てば翌日の1・5ドームではAEWのクラウディオ・カスタニョーリを相手に初防衛戦を行う。様々な経験と紆余(うよ)曲折を経てたどり着いた初のドームでのメイン。スポーツ報知では、プロレス界の新世代を担う海野の言葉を3回に渡り連載する。最終回は「ブーイング」「入場に込める思い」。
ザックへの挑戦が決まった道のりでクローズアップされたのが「ブーイング」だった。ザックが内藤を破った10・14両国、ザックが鷹木を破り2度目の防衛に成功した11・4大阪。いずれも試合後にリングインし挑戦を表明したが、会場からは海野が登場したと同時にブーイングが起きた。このブーイングをどう受け止めてるいるのか?
「率直に言って『何も思ってないです』というのが本心です。ブーイングが起きる僕の受け取り方は、実績、結果も残していない人間がIWGPに挑戦してしかも東京ドームのメインになる可能性があるなんて、ふざけんなよっていう意見だと思います。でもブーイングと言っても両国と大阪の2回しか起きてないんです。タッグリーグ戦でも全戦で起きていません。『ショータ・コール』がずっと起きていますし、入場する時にみんな、ハイタッチしてくれています。それが現実なんでブーイングより歓声の数の方が多いと思っています。ネガティブな部分はインパクトが残るとは思っているぐらいであまり気にしていません。何ならブーイングの数が多ければ多いほど話題になっていると思います」
マイナスな感情を抱かずすべてをプラスに考える。それは、声援を送るファンへの思いが表れていた。
「ブーイングが起きてもあきらめない気持ちで僕を応援してくれて僕が勝つことを信じて疑わないファンには感謝しかないです。そういう人たちに東京ドームでベルトを獲得して『ありがとね。ここからがオレのスタートだよ。オレから目を離すなよ』っ伝えたいんです」
ベルトを奪取した後の野望もファンへの感謝だった。
「巡業で1年に1回行くか行かないかの土地に行ってファンにベルトを巻いている姿を見せたいんです。花道じゃないところから入場をしてリングサイドから一番遠いところから出て来て『オレはここにいるよ』って伝えたい。一年に一回しか新日本プロレスを見られないかもしれないけど『オレはこんなに近くにいるよ。プロレス楽しんでいこう』って…それを貫きたい」
海野は花道ではなく客席から入場する。あのスタイルには意味があった。
「コロナ禍があって、お客さんは声も出せない、お客さんと選手の距離が遠くなってしまいました。これは世界的なパンデミックで仕方のなかったことなんですが、今まで距離が近かったのに、何かなんかみんながプロレスに燃え切れないこの感情はなんだろう?と思った時にそういうのを全部ぶちこわすためにもオレがお客さんの中をかき分けてお客さんと選手はひとつだよって取り戻したかった。選手がリングで戦っているだけがプロレスじゃないよって。お客さんと選手がひとつになって初めて会場のボルテージはマックスになるしプロレスは楽しめるんだよって…伝えたかった。だから、もう一度プロレスの楽しさをわかってもらえるためにあの入場をはじめたんです。プロレスラーとお客さんはひとつなんだよっていうメッセージです」
そして、続けた。
「世界中で起きたパンデミックにスポーツ、ライブ、どのジャンルもみんな苦労しました。そこから取り戻すために、あらゆるジャンルでみんながいろんなものに取り組んでいると思います。振り返って、新日本プロレス、プロレスは今までと同じようにお客さんと触れ合わないで入場して試合するのが本当にプロレスか?って思いました。お客さん、レスラー、会場が三位一体になってひとつの作品を作り上げるのがプロレスじゃないのか?と思う。花道から入場して試合をしてありがとうと終わるのが本当にエースなのか?と…固定概念的にはそうかもしれない。だけど、僕は新時代とずっと言ってきてパラダイムシフトと言っている。今までの固定概念を覆すと言っている。本隊の王道の選手が花道じゃないところから入場してお客さんを楽しませる。会場の一番、ドームの二階席の奥まで楽しんでもらえる。最前列で見ている方と同じ満足度を与えるのは全レスラーができることじゃないと思っています。それをより意識してやっています。この新しいプロレスの形を5年、10年やり続けることが海野翔太の個性になると思います」
新時代を切り開く覚悟を明かした。
「この入場をやり続けてほしいと言ってくれるお客さんがいる以上、子供たちも入場前にどっから出てくるんだろうってキョロキョロ探してくれている以上は裏切りたくないし、今、プロレスは新しいものに生まれ変わる時だと思う。オカダ(カズチカ)さん、(ウィル)オスプレイが抜けました。だからといって新世代からポンポンポンってトップになれるほど今の新日本プロレスは楽じゃない。トップがいたからこそ、上に行けなかった先輩の意地もあるし、そこがバチバチとぶつかり合ってトップが出てこない状態が今の新日本プロレス。だから、今回のドームは、歴史が変わる瞬間です。ブーイングもあったしマイナスの意見もあったし、新日本プロレスに対しての不満もあった。そのすべてを受け止めてこの東京ドームがあったから海野翔太の生き様を見られたと言ってもらえるようなドームにしたい。会社の看板、責任、プレッシャー、緊張感もすべてを背負ってリングに立ちたい。まだまだプロレスは大爆発できるし新日本プロレスが世界で一番だと信じて疑わない。やるしかないという熱い気持ちをもって生き様を見せ続けていきたい」
歴史を振り返ってもマイナスをプラスに転換させるのがトップレスラーの条件。
アントニオ猪木も長州力も武藤敬司も棚橋弘至もオカダ・カズチカも批判、ブーイングを糧にしてトップに立った。海野翔太の現在地は「そこにあると思う」と聞くと「そこは難しいんですけど…そういう方たちが歴代にいたから自分もそういう道を辿るとは思ってはいません」と答え、こう説いた。
「人間は、現実に起きたことっていいように捉えないと思うんです。なんなら僕は、父が『レッドシューズ海野』だから、めちゃくちゃ苦労してきました。入門当初もそういう父を持っているからこそ誰よりも厳しくされて育ってきました。(獣神サンダー)ライガーさん、真壁(刀義)さん、タイガー(マスク)さん、矢野通さん、オカダさんからも「甘えるなよ。やるのは自分だぞ」って強い教えがあって人として成長できました。父が『レッドシューズ』だからいいことなんてあるわけじゃなかった。なんなら周りは嫉妬するし、小僧のくせに調子のんなって、そういのをたくさんたくさん受けてきたからこそドームのメインに立てるんだと受け止めています」
その上で「ブーイング」はエースになるための「登竜門」的な見方への考えをこう繰り返した。
「端から見れば武藤敬司さんが辿った似たようなレールと思うかもしれない。だからといって武藤さんになれるわけでじゃないしあくまでも海野翔太は海野翔太なんです。武藤さんになりたいわけじゃない。そのレールを操縦しないといけないのは自分なんでそこに限っては武藤さんと一緒とは思わないし、すべては自分がやることによって左右されるんです。つまり、自分がこければレールは脱線するし、新しくレールを敷き直せばそのまままっすぐ進む。レールを敷かれていると思われているなら意地でも自分で違うレールを敷いて自分の道を突き進みますよ。だから僕は、ファンが右って言うならまっすぐに行きますし、左って言ってもまっすぐ行きます。その先に右へ行っても左へ行っても最終的にポイントが交わって、そこで合致した時に海野の生き様はそういうことかとわかってくれればいい。ブーイングがある現状は受け止めますが、大切なことはいかに自分を貫いて戦い続けるか。自分の生き様は父に右ストレートを食らった時から決まっていた。その生き様をみなさんにお届けしたい」
すべてを背負う運命の1・4。ザックに勝つポイントは何か?
「あきらめない気持ちです。お互い苦労してきたと思います。苦労の種類は違えどお互い嫌な思いはしてきた。あんなにポテンシャルがあって実力があって強いザックがIWGPのベルトを巻けなかった。彼はずっと苦労してきたと思う。それが今年、やっとG1制覇、IWGPのベルトを巻いて、ドームのメインをつかんだ。(2017年新日本入門の)同期として苦楽を共にした僕だからこそザックの気持ちがわかる。お互いの気持ち、闘魂をぶつけあってどっちが強いか。どっちの魂が萎えないか。いい意味で昔の新日本プロレスらしい戦いを示した上で新しい世代でこれからの新日本プロレスを盛り上げていく着火剤のようなドームにします」
(敬称略。福留 崇広)
◆海野の東京ドーム2連戦
【1・4】IWGP世界ヘビー級選手権 60分1本勝負
王者・ザック・セイバーJr. vs 挑戦者・海野翔太
【1・5】スペシャルシングルマッチ(1・4でザックに勝てばIWGP世界ヘビー級王座初防衛戦)
海野翔太 vs クラウディオ・カスタニョーリ