楽天の外野手として2012年に盗塁王に輝き、2013年には初の日本一に貢献した聖沢諒さんからこの秋、聞いた話だ。
国学院大の主将だった聖沢さんは2007年の大学・社会人ドラフト4巡目で楽天に指名され、杜の都が新天地になった。2008年1月、仙台市内の泉犬鷲寮に入寮。期待と不安を胸に、新生活が始まった。
新人合同自主トレ期間中のことだった。寮の部屋をノックする音が聞こえた。誰だろう。ドアを開けると、プロ2年目の田中将大が立っていた。
聖沢さんは回想する。
「マー君は甲子園のスターだし、前の年に11勝を挙げていますから。『うわっ、マー君だ!』って驚いちゃって…わざわざあいさつに来てくれたんです」
19歳の田中は言った。
「田中将大です。よろしくお願いします」
聖沢さんは返した。
「聖沢です。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
「聖沢さん、敬語なんかやめてくださいよ」
二人とも笑顔になった。
田中が投げ、聖沢が打ち、走り、守る。そうして積み重ねた白星は、いくつあったことだろう。その、はじめの一歩。聖沢さんはこう結んだ。
「マー君との思い出はいろいろあるんですけど、最初にあいさつに来てくれたことは、一生忘れないと思うんです。すごく、うれしい出来事でしたから」
* * *
2024年が終わり、新たな年が始まる。田中は巨人の一員として、2025年のシーズンを戦う。はじめの一歩は常に不安なもの。あいさつはそれを解消してくれる。
まずはドアをノックすることから始めたい。新しい舞台でチャレンジする人たちに、心からのエールを。(加藤 弘士)