初めて浅草歌舞伎に出演している中村鷹之資(25)。取材中、鷹之資の声はおどり、「それにしたって、やっぱりね、もう本当、浅草熱いんですよ。だから、もうなんか僕もね、信じられないぐらい汗かきながら、ずっとやってるんですけど」と言葉は止めどなくあふれた。
人間国宝・5代目中村富十郎さんが69歳のとき長男として生まれた。11歳で父を亡くしながらも、歌舞伎とまっすぐに向き合い、14歳で始めた勉強会「翔之會」は今も続けている。今年からメンバーが一新した浅草歌舞伎の舞台でも日々勉強だ。「なかなか普段絡まない方とがっつり絡むこともありますし、そういう意味では、すごく新鮮。もちろん和気あいあいとしながらも、ある種、おのおの、緊張感を持ってやれてるのかなと思います」
今回の浅草歌舞伎では、第1部「絵本太功記 尼ケ崎閑居の場」で武智十次郎光義、第2部の同作で佐藤虎之助正清、「棒しばり」で次郎冠者を演じる。なかでも十次郎は華のある大きな役だ。「十次郎の雰囲気によって前半の部分が決まるところもありますし、毎日やりながらも、やっぱり難しいなと。それでも歌舞伎の魅力がつまったお役だと思うので、すごく充実しています。1か月かけてもやりきれるものではないかもしれませんが、少しでもこれからの可能性が見えるものをやらなきゃと思っています」。松本幸四郎(52)から教わり、若さとはかなさを醸し出す十次郎をまっすぐに演じている。
1部で父・武智十兵衛光秀を演じるのは市川染五郎(19)だ。「すごく、染五郎さんの光秀が立派で。お父様(幸四郎)というか、おじい様(松本白鸚)にもそっくりで。染五郎さんの気迫のようなものを感じて、僕もそこに対して命がけで応えなきゃいけないと思いながらできるので、すごく毎日楽しいです」
ユーモアあふれる棒しばりの次郎冠者は昨年の勉強会でも勤めた役だ。「前回を踏まえてもっともっと進化していきたい、進化しなきゃいけないと思いながらやっています」。染五郎が演じる太郎冠者とのやりとりで、笑いを起こしている。
鷹之資の顔は充実感に満ちあふれている。「父が亡くなって、なかなか教わる機会っていうのが多くはない中で、こうやって若手公演に入れていただいて、毎日毎日古典のお役をさせていただけるこの場があるということが、とてもうれしいんです」。千秋楽まで実直に、役と向き合う。(瀬戸 花音)
◆中村鷹之資(なかむら・たかのすけ)あらかると
▼生まれ 1999年4月11日、東京都生まれ。25歳。本名・渡邊大
▼経歴 2001年4月、歌舞伎座で中村大を名乗り父の「石橋」で文珠菩薩を勤め初舞台。05年11月、歌舞伎座「鞍馬山誉鷹」の牛若丸で初代中村鷹之資を襲名。歌舞伎以外では16年に「家族はつらいよ」、17年に「家族はつらいよ2」(ともに山田洋次監督)に平田謙一役で出演。屋号は天王寺屋
▼ニックネーム だいちゃん
▼好きな食べ物 いちご大福
▼ライバル 自分自身
▼憧れの存在 父・5代目中村富十郎
▼憧れの役 勧進帳の弁慶
▼いま一番欲しいもの ゆっくり旅行する時間
▼好きな色 黒(「黒いものばかり着ていたから刀剣乱舞で同田貫正国の役が来たのかな…」)
▼座右の銘 芸は人なり
▼好きなスポーツ選手 父も好きだった長嶋茂雄さん
▼趣味 釣りに行ったり、船に乗ったり、泳いだり。家にいるときはお香をたくこと
▼理想の休日の過ごし方 ずっと寝ていたい