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【新春浅草歌舞伎で奮闘する7人の若武者たち】第3回=中村莟玉

スポーツ報知 2025年1月16日 16時0分

 中村莟玉(28)にとって10回目の浅草歌舞伎。経験者として、座頭の中村橋之助(29)を支える存在となった。「開幕前は橋之助さんと、『これから僕らでちゃんと引っ張っていけるのかな』と話もしましたが、僕らが不安と闘いながらやっているものを、まるっと温かくお客様が受け入れてくださっている感覚があります」

 やわらかな雰囲気に包まれながらも、強い芯が言葉と瞳に垣間見える。一般家庭に育った莟玉は06年より人間国宝・中村梅玉(78)の部屋子になり、その後養子となった。端正な容姿で立役(男役)も女形もできるが、「自分の希望としてはどっちもやりたい」と求められた役に全力を尽くしている。

 今回の浅草歌舞伎では第1部「絵本太功記 尼ケ崎閑居の場」で真柴筑前守久吉、「道行旅路の花聟 落人」で腰元おかる、第2部「絵本太功記―」で光秀の妻操を演じている。操は中村魁春(77)から教わった。「大きな武将の妻であり、当時の時代の中で夫に意見をいえる強さがあること。義母との関係性など、太功記十段目で描かれてない部分がお客様に透けて見えてこないと説得力がないと教わり、そこは意識してやっています」

 腰元おかるは華やかな舞台上、橋之助が演じる早野勘平との風情あるやりとりが見せどころとなる。「ただ踊って、体が使えて、ということじゃない部分が求められる一幕だなというのは非常に感じています」。ゆったりとした所作の中にそれぞれの繊細な思いがにじむ。

 舞台の上で、橋之助と心が通った瞬間があったという。「最初の3日間ぐらいは、2人で踊ってるんだけど、もうおのおのがやることで精いっぱいって感じだった。数日たって、舞台で目を合わせた時、『あ!』ってなった時間があったんです。引っ込んでから『今日、心通ったね。やっとお互いを思ってできたね』って話をしました」。この公演を引っ張るふたりが互いを意識し、歩を進めている。

 「もっと切羽詰まって心の余裕がない中やるかなと思ってた。でも橋之助さんがどーんと構えてくれてるんで、精神的にすごく落ち着いた状態で毎日取り組めています。せっかく浅草歌舞伎でしかチャレンジできないようなお役をやっているので、このひと月だけで終わりを目指すというよりは、もっとその先につながるように過ごしていきたいと思っています」と未来を見る。「課題だらけですけどね」という莟玉の瞳には充実の光が宿っている。(瀬戸 花音)

 ◆中村莟玉(なかむら・かんぎょく)あらかると

 ▼生まれ 1996年9月12日、東京都生まれ。28歳。本名・森正琢磨

 ▼経歴 2004年3月中村梅玉に入門。05年1月、国立劇場「御ひいき勧進帳」富樫の小姓で森正琢磨の本名で初舞台。06年4月に梅玉の部屋子となり中村梅丸を名乗る。19年11月梅玉の養子となり、中村歌右衛門の自主公演「莟会」(つぼみかい)より一字、梅玉より一字もらい、中村莟玉と改名。09年、「京乱噂鉤爪」の花がたみで国立劇場特別賞。現在、NHK―FM「カブキ・チューン」のパーソナリティーを務める。24年、芸能事務所「ANDSTIR」に所属。

 ▼ニックネーム まるちゃん

 ▼好きな食べ物 そば、カスタードクリーム、ホットク

 ▼ライバル 「刺激を受けているのは中村鶴松さん」

 ▼憧れの人 中村梅玉

 ▼趣味 映画、サウナ、パンダ

 ▼いま一番欲しいもの 巡業先で出会ったホテルのベッド

 ▼旅行で行きたいところ 富士山、シャンシャンのいる中国

 ▼座右の銘 「人事を尽くして天命を待つ」「過去が咲いている今、未来の蕾(つぼみ)でいっぱいな今」

 ▼好きな色 白

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