今年の野球殿堂入りの通知式が16日、都内の野球殿堂博物館で行われ、エキスパート表彰で阪神OB会長・掛布雅之氏(69)=スポーツ報知評論家=の殿堂入りが決まった。指導者、評論家に転じてからの引退後を担当する島尾浩一郎編集委員が、掛布氏の横顔を紹介する。
令和の選手たちは一部の心ないファンから、SNSやネット上で誹謗(ひぼう)中傷されている。掛布氏の活躍した昭和はその“攻撃”が直接的だった。球場でのヤジにとどまらず、自宅にカミソリ入りの手紙が届き、愛車にいたずらもされた。一番つらかったのは、連れて歩いていた安紀子夫人が罵声を浴びたときだった。
「阪神ファンが嫌いだった」。その気持ちが氷解したのは、引退試合で甲子園のスタンドに掲げられた「夢をありがとう」の垂れ幕を見た時。強すぎる愛の裏返しだったと悟った。殿堂入りのスピーチでも「ファンの温かい声援があったから、今ここに立っていられる」と感謝の思いを伝えた。
支えてくれた仲間たちへの思いも忘れることはない。現役時代の番記者メンバーとの食事会は毎年、欠かさない。阪神2軍監督時代に裏方として支えてくれたトレーナーらとのゴルフコンペも続けている。「打席では誰も助けてくれない。プロ野球選手は一人に強くないといけない」と常々、口にするが、絆は大事に紡いできた。愛妻と2人でのゴルフも大切な時間だ。
色紙に添える言葉は「憧球(どうきゅう)」。野球に対する思いを表す造語だ。評論活動でも常に選手へのリスペクトを持ち続けている。会見では投高打低の現状の意見を聞かれたが「打者を責めるつもりはないです。我々の頃より技術もあると思いますし、データも集めています。その中で勝負しているわけですから」と擁護。大きな勲章を授かっても掛布氏と野球との距離感は不変だ。(島尾 浩一郎)