以前から胸に秘めていた「時代物の立役に挑戦したい」という念願がかない、中村鶴松(29)の表情は晴れ晴れとしている。第2部「絵本太功記 尼ケ崎閑居の場」で武智光秀の息子・十次郎を演じて「こんなに気持ちのいい役はない。最初出てきて、2回目も、3回目も、自分が一番、注目されている。いつも悩みながらやるタイプですけど、久しぶりにマイナスの感情を持たずにできていますね」と心を躍らせている。
十次郎は松本幸四郎(52)から教わり、開幕してからは映像を送ってチェックしてもらっている。「すぐに電話をいただいて、課題を指摘してくださいました。次の日には、細かい注意点をPDFにして送ってくれて、すごく丁寧に教えていただきました」と感謝した。改善点は真摯(しんし)に受け止めた上で「全体的に十次郎になっていると思います」「力を込めて最後まで演じきってください」というメッセージに励まされた。
一般家庭出身で、子役から18代目中村勘三郎さん(享年57)の部屋子となり、歌舞伎の世界に飛び込んだ。中村勘九郎(43)、中村七之助(41)からの信頼も厚く、中村屋に欠かせない戦力だ。浅草では中村橋之助(29)と並ぶ最年長。「まさか、自分が最年長になる日が来るとは…。毎日、充実していて、こんなに時間が早く感じるのは久しぶり。終わってほしくない、という気持ちが強いんですよね」と率直な思いを明かした。
昨年2月、歌舞伎座で「野崎村」のお光を好演するなど、立役と女形の両面で力を発揮している。第1部「太功記」の光秀妻操(みさお)役では「『野崎村』で古典を勉強できたのが、確実に生きてますね」。兄と慕う勘九郎、七之助からは「すべての動きに意味をもたせるように」と教わる機会が多く「千秋楽まで、十次郎も操も、動きの意味を意識したいと思います」と気を引き締めている。
若手中心の公演。「円熟した古典もいいけど、若手にしか出せない味もある。全力でぶつかっていく姿を見てもらえたら」。市川染五郎(19)、尾上左近(18)から「10代とは思えない芝居をする」と刺激を受けるなど、切磋琢磨(せっさたくま)する毎日で「みんなが同じ方向を向いている仲間であり、ライバル。来年も呼んでもらえるように頑張りたい」と意欲を燃やしている。(有野 博幸)=おわり=
◆中村鶴松(なかむら・つるまつ)あらかると
▼生まれ 1995年3月15日、東京都出身。29歳。本名は清水大希
▼経歴 3歳から児童劇団に所属し、2000年5月、歌舞伎座「源氏物語」の竹麿で本名の清水大希で初舞台。中村勘三郎の部屋子となり、05年5月「菅原伝授手習鑑 車引」の杉王丸で2代目中村鶴松を名乗る。18年2月、名題昇進。コクーン歌舞伎、平成中村座など多数出演。屋号は中村屋
▼身長 165センチ
▼好きな食べ物 焼き肉、うなぎ、すし
▼ニックネーム つる
▼ライバル 歌舞伎俳優全員
▼憧れの存在 中村勘三郎さん
▼憧れの役 「仮名手本忠臣蔵」5、6段目の早野勘平、中村屋ゆかりの「雨乞狐」
▼趣味 サウナ
▼好きな色 黄色
▼旅行で行きたい場所 モルディブ
▼座右の銘 何事も全力で
▼好きなスポーツ選手 大谷翔平