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麻倉未稀、乳がん手術から7年あまり…闘病で気づいた代表曲「ヒーロー」の不思議な力

スポーツ報知 2025年1月19日 10時0分

 歌手の麻倉未稀(64)は2017年に乳がんが発覚し、左乳房の全摘出手術を受けた。手術から7年あまり、現在はホルモン療法で経過観察を続けている。罹患(りかん)者と「一緒に頑張ろう!」と決意。検診の受診率向上、支援の輪が広がれば、とNPO法人での活動も始めた。闘病中の心境や活動への思い、代表曲「ヒーロー」の存在についても語った。(加茂 伸太郎)

 17年4月にTBS系「名医のTHE太鼓判!」の企画で人間ドックを受診。再検査の結果、左乳房に腫瘍が2つ見つかった。がんの告知後、病院を出ると、ディレクターが待機していた。いやが応でも現実へ引き戻された。

 「私が全ての判断をしないと前に進めないことは、おもむろに分かるような状況でした。先々まで仕事が決まっていたので、それをどうしたらいいだろうというのが先に来ました。その後にガーン…ってショックが襲ってきて。がん患者の私と、すごく冷静な私。2人の私が同居している感覚がありました」

 帰り道、東京駅から自宅のある藤沢まではJR東海道線で片道44分の道のり。「手術するか、それ以外の治療方法を選ぶか。性格的に日にちを置いても進まない。藤沢駅に着くまでに答えを出す」と決めた。

 なぜ、がんに? この先どうなってしまうの? 死ぬのかな? 道中、さまざまな感情がものすごい勢いで駆け巡った。たどり着いたのは「なぜ生かされているか」だった。

 「私と同じ日に、同じようにがん告知を受けた人って全国にたくさんいらっしゃるんだろうなって。罹患した人たちに『みんなで一緒に頑張ろう!』と伝えられるのは、表に出ている私にしかできないことだと思ったんです。今後の仕事のリスクも覚悟した上で、公表することにしました」

 乳がんのステージは2。告知から手術、術後の生活を考えた時、長い、長い旅になることは容易に想像できた。詳細な検査の結果、リンパ節への転移がなかったため、全摘出と同時に乳房の再建手術を受けた。

 「精神的につらいのに、決めないといけないことがたくさんあるんです。手術してみないと、どういうふうに体が変化していくかも分からない」。不安な気持ちを抱えた中での選択の連続だった。主治医を探す際には、医師の「有事の時、すぐに飛んでいける場所。車で15分以内が理想」というアドバイスを参考にした。

 乳がんはサブタイプによって治療法が異なる。自身はホルモン療法が推奨されるルミナルA型だった。この8年近く、飲み薬1粒を毎日服用。血液検査を含む定期健診を欠かさない。

 「一日の中ですごく体調に波があるの。ついていけないなと感じる時もあるけど、ちゃんと仕事はできている。心がけていることは、とにかくストレスをためないことです」

 ドラマ「スクール☆ウォーズ」(山下真司主演)の主題歌「ヒーロー」(1984年11月)をリリースし、40年が過ぎた。今なお多くの人に応援歌として愛され、麻倉の代名詞とも呼べるナンバー。入院中も同曲の存在が励みになった。

 「この曲で『みんな頑張れ!』と歌ってきた。それが、自分のことになると“いや~頑張れません”ってなるのは性格的に許せなかったの。病室で歌っていましたね。うまく言葉では表現できないけど、病気になって歌うと、感じ方が全然違っていたの。この曲が持つ力って何なんだろう。不思議な曲ですよね」

 手術翌日からリハビリを始め、約3週間後に庄野真代(70)とのジョイントライブでステージ復帰。手術痕に多少の痛みが残る中、数曲を歌った。「本来この曲って、力を抜いて歌える曲じゃないのよ。でも、早く復帰したのが功を奏したのか、術後の方が歌いやすくなりました」。そのヒントは呼吸法にあった。

 「呼吸を胸に近い方、背中に近い方、真ん中のどこに入れるかで歌いやすさが変わる。(感覚的に)背中に近い方でブレスすると、楽なことに気がつきました。『力を抜いた状態で、力強く歌う』。ボイストレーニングの先生がおっしゃっていたのは、これなんだなと。腹筋に力がいるけど、この呼吸法を使えるようになって、どれだけ力んで歌っていたのかが分かりました」

 一般的に、10年の経過観察が必要とされる乳がん。麻倉は「10年でOKと言われても、1、2年して再発される方もいらっしゃるんです。私自身は一生、(この病と)共存していかなければいけないと思っています」と覚悟を決めている。

 元プリンセスプリンセスの富田京子(59)と設立したピンクリボンふじさわ(NPO法人あいおぷらす)、理事を務める日本専門医機構など複数の団体で活動するが、今年は「もう少しライブ活動を増やしたい」と意欲を見せる。

 「私の仕事の性質上、全国を回るので、自然と全国の患者さんと接する機会が増える。各地域に診療医の先生、がん看護専門の看護師やケアサポーターがいるので、その方々と患者さんをつなぐ役目もあるのかなと思っています。がんになると『こんなに暗かったっけ?』っていうぐらいまで考え込んで、落ち込んでしまう。一人でも多くの方々に、一時(いっとき)でもいいから、音楽を通して元気になってもらいたいです」

 罹患者だからこその視点、気づきがある。相談を受ければ「答えられる範囲のものは全て答えています」。早期治療、早期発見につながればと、自身の体験談を惜しみなく披露している。

 「手伝ってくれる人がいるから成り立っている。私一人じゃできないですから」と感謝。「患者だけでなく、支える家族も元気になれるように、歌だけでなくワークショップもしていきたい。(生活する)藤沢以外でも活動の場を広げていけたらと思います」

 夢は大きく、気持ちは前向きに。病に打ち勝ち、ヒーローになる。

 ○…「ヒーロー」はボニー・タイラーのカバー曲。当時は葛城ユキさんとの競作としてリリースされた。原曲と葛城版の歌詞は「I need the HERO」だが、麻倉版は「You need the HERO」。最近、訳詞した売野雅勇氏(73)から「君の場合、愛じゃないんだよ。君(の力強い歌声)は『みんな元気出して』と伝えなきゃいけない。だから『You need―』にしたんだ」と説明を受け、長年の疑問が解決したという。

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