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大学3年生の女流棋士 人生の岐路に直面も「将棋を指さないとやっぱりダメ」野原未蘭女流二段

スポーツ報知 2025年1月20日 10時0分

 棋界の話題を取り上げる「王手報知リターンズ」第18回は、2024年に初の女流名人リーグ入りを果たし、年末には勝数規定で女流二段に昇段した野原未蘭女流二段(21)が登場。法政大3年の現役女子大生でもある野原。周りの友人とは職業観の違いを感じながらも将棋と向き合う、等身大の思いを聞いた。(瀬戸 花音)

 いつもはつらつとしている。棋士とも記者とも棋戦関係者とも分け隔てなく、明るい笑顔で話している。「人が好きなのかな? 人にそんなに深く興味はないんです(笑)。でも、好きなんです。矛盾してるけど、人といると楽しいじゃないですか。一人じゃ生きていけないし」。時に21歳と忘れるほど大人びていて、時に21歳らしい、いたずらな笑みも浮かべる。

 24年3月、第51期女流名人戦の予選決勝で女流名人経験者でもある強敵・伊藤沙恵女流四段を破って自身初のリーグ入りを決めた。7か月にわたって戦った結果は、3勝6敗で陥落。初のリーグは苦い思い出となった。

 「ちょっと失速してからのモチベーションの保ち方とか、残留争いになってからの気持ちの切り替えとかが難しかったです。女流名人リーグはトップ層との長い戦いなので、技術面ももちろんなんだけど、体力面とか、精神面とか、全てで戦わなきゃいけないなっていうのを実感した一年ではありました」

 アマ有段者の父の影響で5歳から将棋を始めた。最初に将棋を指した時は父が手加減し、負けてくれた。「すごい負けず嫌いだったので、勝って楽しいなと思ったんです」。ただ、女流棋士を職業として本気で考えたことはなかったという。「『プロ野球選手になりたい』みたいな感覚で言うことはありましたけど、はっきりとした夢かと言われたら、そうではなかったです」

 その後、野原はアマチュア棋界でその名をとどろかせていく。女流アマ名人戦での優勝など女子の大会での活躍はもちろん、中学3年だった18年には中学生将棋名人戦で優勝した。男子も参加する同大会での女子の優勝は史上初の快挙であり、いまだ後に続く者のいない記録でもある。自身の考えとは逆に、周りは野原が女流棋士になるのが当たり前のこととして、接してくるようになった。

 そんな中、2020年に新型コロナが日本を襲う。ウイルスは、将棋界にもその影響を及ぼした。アマチュアの将棋大会はこぞって中止に追い込まれ、唯一職業として成立しているプロの棋戦だけが、運営を続けていた。

 だからこそ、高校生の野原は、「プロになるしかない」と思ったという。「将棋を指し続けるためには、プロになるしかないんだなと思ったんです。それまでは普通に大学に進学して、そこから考えればいいと思っていました。だけど、コロナ禍で将棋が指せなくなって、猶予はなくなりました」。覚悟を決めた。

 同年の倉敷藤花戦でベスト16に残った野原は、すぐに森内俊之九段に手紙を書いた。ベスト8に残れば女流棋士になる資格を得るが、師匠が必要だった。「(森内は)ちょうどABEMAトーナメントにチームレジェンドで出ていて、めっちゃ勝ってて、めちゃくちゃかっこよかった。それで弟子にしてほしいって手紙を書きました。返信が来るまで1、2週間ぐらいかな…毎日家のポストを見に行って、ドキドキしてました」

 返信は来た。室田伊緒女流三段を倒し、ベスト8に進出した数日後、東京で森内と将棋を指した。その翌日、電話があった。森内は「弟子にとります」と言った後、「誕生日おめでとう」と続けた。8月4日、野原の17歳の誕生日だった。「今でも、一番思い出に残っている誕生日です」と野原は心底うれしそうに笑って振り返る。

 現在、大学3年生。対局後に「これから5限です…」と将棋会館を後にして授業に向かう野原を何度も見た。周りの友人は就職活動まっただ中だ。「聞かれるんですよ、『働くってどんな感じ?』とか。でも、私の職業観と周りの感覚はだいぶ違うと思う。私は好きなことを続けていたらそのままここにいたって感じで…」

 就活に関わる授業も履修した。「みんなが人生の大きなターニングポイントを迎えている時に、なんか自分は何も考えずに、そのターニングポイントを過ぎちゃったのかなって。もっといろいろ職業について考える世界線もあったんだろうなとか、自分は本当にこのままでいいのかなとか、悩む時期はちょっと前までありました。女流棋士人生をちょっと考えるきっかけではありましたね」

 それでも、野原はこれからも将棋を指し続ける。「やっぱり、将棋という奥深い競技が好きなんだと思います。将棋を指さないとやっぱりダメだなって」

 今年の目標は、「まずは女流名人リーグに戻ること。そして、女流順位戦昇級(現在B級)ですね。タイトルとかも挑戦したいけど、一歩一歩着実に前に進むことができたら、見えてくるのかな」。職業・女流棋士。野原はニコリといつもの笑みを見せた。

野原未蘭女流二段の「推し棋士」

 めちゃくちゃ考えたのですが、森下卓九段でお願いします! 師匠(森内)という答えもあったのですが、ちょっと無難すぎるかなと思って…。

 森下先生はいつもお会いすると、「野原さん!」と楽しく話しかけてくださって、会うとやっぱり笑顔になれますよね。あとはいろいろ記事も読ませていただいたりしていて、順位戦への思いとか将棋への思いもすごくかっこいいなと思いました。

 何と言っても、通算1000勝まであと3勝ですから! 皆さんも注目してください! ちなみに、師匠も1000勝まであと4勝です!(談)

 ◆野原 未蘭(のはら・みらん)2003年8月4日、富山市生まれ。21歳。森内俊之九段門下。アマチュア時代に女流アマ名人戦3連覇、中学生名人などを獲得。20年、倉敷藤花戦にアマチュアとして出場。ベスト8に進出し、規定により女流2級の資格を得て同年、プロデビュー。24年、女流二段に昇段。

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