第97回センバツ高校野球大会(3月18日から13日間・甲子園)の選考委員会が24日、大阪市内で行われ、32校が選出された。21世紀枠には横浜清陵(神奈川)と壱岐(長崎)がともに初出場を決めた。全部員が島出身の壱岐は、甲子園1勝に挑む。
* * *
ピーンポーンパーンポーン…。午後4時、島内全域で、のんびりした独特の間合いの公共告知放送が流れた。「こちらは壱岐市役所です―。壱岐高校野球部の―、第97回センバツ高校野球大会への―、出場が決まりました―」。県勢初の21世紀枠での聖地だ。壱岐から甲子園へ。島民全員が“100年に1度”と待ち焦がれた奇跡が実現したことを知った。
発表の中継で壱岐の名が読み上げられた瞬間、真っ先に立ち上がって喜んだエースの浦上修吾主将(2年)は「10分くらいで実感が湧いてきた。自分たちの夢であった壱岐から甲子園という夢がかなって、とてもうれしいです」。“春一番”の呼称は、実は壱岐発祥の言葉。ひと足早く届いた春の便りに笑顔がはじけた。
76年の創部から50年目の吉報だ。21人の選手、4人のマネジャー全員が島の子。九州大会で1勝してベスト8入りしたことが、成績面でも後押しとなった。
離島勢最大のハンデは資金面にある。島外への遠征はフェリーと車で約5~6時間かかる。費用は1回で約30万円かかり、年間約20回の遠征で約600万円以上の負担を保護者は強いられている。市は九州大会8強入りを受け、野球部支援のふるさと納税の募集を開始。12月17日からこの日までに400万円以上の寄付が集まった。
永田宗広後援会長(69)は「資金はいくらでも集めるぞ。いるしこ(必要なだけ)集めないかんという思いです」。1年生122人、2年生142人で、玄界灘を渡り全校応援する計画もある。
全国経験者もいる2年生は、中学3年で引退後、自発的に集まって定期的に練習をしていた。島外の高校から勧誘されたメンバーもいたが、1月までに全員が壱岐進学を決意。そして夢が実現した。「甲子園で勝って校歌を」。新たな夢が、この日生まれた。(西村 國継)
◆壱岐 1909年創立の県立校。全日制普通科に普通コースと東アジア歴史・中国語コースがある。生徒数は414人(うち女子211人)。野球部は76年に創部。部員は25人(うちマネジャー4人)。
【人口減】 1960年に島全体で5万人超の人口があったが、年々減少し、2024年末時点では2万3731人
【元寇】 鎌倉時代の2度の「元寇(げんこう)」では、元・高麗連合軍と島民との間で激しい戦いが行われた
【交通】 唐津(佐賀)からフェリーで1時間40分、博多から高速船で1時間10分、フェリーで2時間20分。空路は長崎便のみで約30分
【春一番】 壱岐市郷ノ浦町の漁師53人が1859年、「春一番」と当地で呼ばれていた春の突風で遭難した事故が由来。立春から春分までの間に初めて吹く暖かい南寄りの強風
【グルメ】 年間900頭ほどしか出荷されない希少な壱岐牛。潮風を受けた牧草を食べて育った牛の肉質はとても柔らかいと評判。5月からはウニのシーズン
【ビーチ】 壱岐のビーチは天然の白砂が中心で、島内に7か所の海水浴場がある。壱岐の白砂は全国的にも珍しい貝殻が砕けてできたものでサラサラ
【日本で5番目にできた】 古事記の国生み神話では、淡路島、四国、隠岐、筑紫(九州)、壱岐、対馬、佐渡、本州…と日本で5番目につくられたとされる