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特別支援学校でも「チームで野球がやりたい」人生を変えた友の言葉 校長先生へ直筆の手紙 伝えた熱意…慶応高と合同練習

スポーツ報知 2025年1月30日 11時0分

 1月の冷たい風が吹き抜ける。だがグラウンドに流れる空気は、どこまでも温かい。至る所で笑い声が聞こえる。誰もが笑顔で白球を追っている。

 1月25日、横浜市内にある慶応高の日吉台野球場では、同校の野球部員と、知的障がいのある全国の中高生に硬式野球の練習、対外試合の機会を提供する「甲子園夢プロジェクト」の選手27人、そして青鳥特別支援(東京)の部員11人による合同練習会が行われた。2021年にスタートし、6度目になる。

 慶応高・森林貴彦監督の発案で、慶応ナインとゲストの選手たちはペアを組み、マンツーマンで練習をともにする。ノック、打撃練習、ブルペン投球で汗を流す中、自然と会話を重ね、関係性も濃くなっていくのがポイントだ。

 一心不乱に、置きティー練習に取り組む選手がいた。広島県立黒瀬特別支援学校1年の南昊雅(こうが)君だ。広島・東広島市の自宅から朝一番で新幹線に乗り、日帰りでやってきた。

 パートナーを務めた慶応高の選手は「いいぞ!」「ナイスバッティング!」「打球エグいな!」と笑顔で声を掛けていく。さらにやる気がみなぎり、集中力が増していくのが分かる。

 合同練習会を終えた南君は気持ちを高ぶらせ、話した。

 「優しくて、失敗しても丁寧に教えてくれたので、本当に良かったです。練習は全部楽しかった。慶応の皆さんに『これが野球だな』と教えてもらいました」

* * *

 南君は言う。

 「僕の人生を変えてくれた人がいるんです。同級生で今、武田高校で頑張っているんです」

 小学生の頃から野球が大好きだった。地元・広島カープの大ファン。将来の夢は「プロ野球選手」だった。東広島市内の公立小に通う4年の秋、その友達が誘ってきた。

 「一緒に野球をやらないか」

 南君は水泳教室に通っていた。当然、野球はプレーしたかった。だが周囲にも相談した上で、こう返事した。

 「障がいもあるし、チームの足を引っ張るかもしれないから、やめておこうかな」

 友達はこう返した。

 「障がいは、野球に関係ないよ。一緒にやろうよ」

 南君は回想する。

 「そこまで一生懸命に誘ってくれるんだったら、自分も本気になってやりたいと、野球チームに入ったんです」

 * * *

 大好きな鈴木誠也を夢見て、必死に取り組んだ。地元の黒瀬中に進学すると、軟式野球部で白球を追った。指導者やチームメートは特別扱いすることなく、一人の選手として見てくれた。エラーをした時、同級生は「ちゃんとボールを見て捕れよ!」と声を掛けてくれた。それがうれしかった。負けん気に火がついた。とにかく練習した。控え選手だったが、練習試合ではヒットを放ち、盗塁を決めた。

 高校は特別支援学校に進むことになった。学校には野球部がない。帰宅後は家の近所のグラウンドで一人、硬式ボールを握って練習に取り組む。月に数度、女子硬式野球チームによる野球教室に参加し、アドバイスをもらう。

 母・沙織さんは語る。

 「やっぱりチームで野球がやりたいみたいです。毎日、言っています」

 そんな南君の背中を押すニュースが飛び込んできた。昨夏の高校野球西東京大会。青鳥特別支援が、特別支援学校では全国で初めて夏の大会へ単独出場したのだ。

 野球部を創りましょう。南君は校長先生に手紙を書いた。便箋に思いをつづった。直接話す機会もあった。校長先生は熱意を聞いてくれた。費用の問題や部員をどう集めるか、クリアしなきゃいけない課題はある。簡単な話ではない。今後はどうなるか分からない。それでも、熱き想いを受け止めてくれる人がいる。

 結びに、夢を語ってくれた。

 「強いチームを目指して、頑張っていきたいです」

 白球に懸ける情熱は、どんな強豪校の選手にも負けていない。(編集委員・加藤弘士)

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