Jリーグを経由せずに欧州へと飛び込み、今や日本人で最も価値の高い10代として、世界のサッカーシーンで注目を集める存在となった選手がいる。U―19日本代表のDF小杉啓太(18)だ。スウェーデン1部ユールゴーデンに所属する左サイドバック(SB)は、プロ1年目のスタートを切った昨季、公式戦24試合で2得点2アシストをマーク。今オフには、欧州ビッグクラブからも関心を寄せられる存在となった。Jリーグと同じく春秋制で行われているスウェーデン1部リーグ開幕、そして欧州カンファレンスリーグに向けて準備を進める次世代の左SBに話を聞いた。(3回連載の第1回、取材・金川誉)
日本人選手が欧州を目指すのは当たり前の時代となり、今やJリーグを経由せずに海を渡る選手も増えてきた。ただ欧州クラブに移籍すれば、無条件に道が開かれるわけではない。プロ未経験でスウェーデンへと渡った18歳が、未来をこじ開けた瞬間があるとすれば、このタイミングだったのかもしれない。
24年の7月28日、エルフスポリ戦の試合2日前。小杉は監督の元に出向いた。同年3月の加入からこの日までは、出番は途中出場したわずか1分とアディショナルのみだった。しかし左サイドバックのレギュラーが移籍し、この試合でチャンスが与えられる可能性は十分に理解していた。「準備はできています」。当時、ユールゴーデンは2人監督制という珍しい形。ひとりは笑い、もうひとりは「わかったよ、という感じでした」。この試合でプロ初先発を果たした小杉は、フル出場で持ち味を発揮。この一戦をきっかけに、先発の座をつかんでいくことになった。
湘南の下部組織で育ち、年代別代表にも名を連ねてきた。当然、湘南からのトップチーム昇格や、大学進学という選択肢もあった。育ってきた湘南への、感謝の思いも当然あった。しかし、プロ入りのタイミングでJを経由せずに欧州に飛び込む決断を下した。
「1番の理由は、自分がそもそもヨーロッパでプレーしたいっていう夢を持っていたから。挑戦できるタイミングって、ユースから大学に進学するか、トップに上がるかの時期。このタイミングは、自分で選べる立場にある。最初、どこでスタートするかを選べるっていうところで、ヨーロッパを自分で選びたかった」
この時点で契約したエージェントが海外の各クラブに売り込み、トライアルに参加。年代別の日本代表でプレーしてきたこともあって評価は高く、欧州CL出場クラブからのオファーもあったという。しかしユールゴーデンは、当時在籍していた左サイドバックのスウェーデン代表DFダール(21)に、ビッグクラブ移籍が迫っており、その後継者として小杉を求めたという。他クラブではセカンドチームからのスタートとなることもあり、トップチーム定着はどのクラブが最も近いかを冷静に考えた。さらにユールゴーデンが持つ明確な育成、起用のプランが印象に残った。24年3月18日に18歳となり、プロ契約が可能となった小杉は、3月22日にユールゴーデンへの加入を発表。日本ではなじみの薄いスウェーデン行きを決めた。(次回は31日)
◆小杉 啓太(こすぎ・けいた)2006年3月18日、神奈川県鎌倉市生まれ。18歳。西鎌倉SCを経て湘南のジュニアユース、ユースに在籍。24年3月にスウェーデン1部ユールゴーデンへ加入。172センチ69キロ、利き足は左。