プロフィギュアスケーターの羽生結弦さん(30)の単独インタビュー第1回。出演・制作総指揮を務める「Yuzuru Hanyu ICE STORY 3rd “Echoes of Life” TOUR」は千葉公演(7、9日・ららアリーナ東京ベイ)で千秋楽を迎える。今回も過去2作のアイスストーリー同様、物語(台本)も執筆した。命の哲学というテーマに向かって3日間徹夜で言葉を紡ぎ、完成した力作。準備段階では哲学書の他、太宰治の小説にも触れた。(取材・構成=高木 恵)
一人で2時間半のショーを滑るアイスストーリーで、羽生さんは台本の執筆も手がけている。今回は3日間徹夜で書き上げた。
「その間、2日間練習しているんですよ(笑)。最初の日、練習して。帰ってきて、そのまま徹夜して。その後また練習があって、そこから寝ないでまた書き続けて。『ああ、もう朝だわ』と。で、『あー3日目だ、練習しよう』みたいな」
多くの場面で見せてきた驚異の集中力をここでも発揮し、完成度の高い書物ができあがった。
「浮かんだ時に書かないと無理だっていうふうに思っていたのと、単純に締め切りが危なかった(笑)。でも何も浮かばなくて。大体大筋は決まっていたんですけど、設定を考えるのが一番大変だったんです」
今回のアイスストーリーでは「命とはなにか」「わたしとはなにか」という哲学を、小説に落とし込んだ。
「何を伝えたいかということと、その物語を構成していくためのプログラムたちを選曲していく作業が、2か月近くかかって。そこから設定が大体決まって概要も決まって、どんな物語を書くかが決まって、書かなきゃいけないよね…って思っていたんですけど、ちょこちょこは書いていたんですけど、うまく書ききれていないなと思ったので。もう最初から全部破棄して、最初から全部書き直して」
執筆はいつも手書きだ。紙に書き殴る。準備段階で「生誕の災厄」などの哲学書の他に、小説も読んだ。そのうちの一冊が太宰治の「人間失格」だった。
「太宰を読んでおこうって思ったんですよ。僕、今までそういう小説っていうものにあまり触れてこなかったんです。まともに読んだ本といえば『古事記』くらいしかなかったので」
そこで「古事記」が出てくるあたりが、渋い。中学生の時だった。
「読書時間みたいなのがあって、その時に母に渡された『古事記』を読んでいたぐらい(笑)。自分の中で小説というか、活字に触れるという機会がなかったというか、あまり自分も得意ではなかったので。だから今回、オーディブルで音声を流しながら、『人間失格』を読んでいました」
ナレーションに耳を傾けながら、文字を目で追った。過去のショー「GIFT」「RE_PRAY」でもストーリーを紡いだ。その過程で、「太宰治っぽい」と言われたことがある。
「今回は小説っぽく書きたい、ちゃんとストーリーっぽく仕上げたいというのが最初の段階から自分の中であったんです。自分が、なんかちょっと似ているって、書き方が似ているって言ってくださっている方もいたので、ちゃんと勉強しないとダメだなと思って」
そう決めたからには、とことん学び尽くすのが羽生結弦だ。
「言葉の回し方もだし、ストーリー自体も。『人間失格』を読みながら『分かるわー』ってなる人、なかなかいないと思うんです。だけど、教養として確かに、人間の闇というか欲というか、そういうものの根源をずっとのぞき続けているような。こういう知識というか世界観は、頭の中に入れておいて損はないなというのはすごく思いました」