俳優の岡本圭人(31)が、第59回紀伊國屋演劇賞で個人賞を受賞するなど、演劇界で頭角を現している。2週連続インタビュー前編では受賞の喜びや、舞台「Le Fils 息子」(24年)で共演した父で俳優の岡本健一(55)への思い、役と向き合う心構えを語った。
取材は、舞台「消失」の公演後に行われた。疲れの表情を一切見せず、圭人は「大きく掲載していただけるインタビューなんですよね。うれしい、うれしい」と笑顔で記者を迎えた。
演劇賞の受賞はキャリア初。吉報は、同作の稽古中に届いた。
「稽古で『他の人と違って何でこんなに自分って、できないんだろう』って悩んでいた時に受賞のお話を頂いたので、『まさか自分が!?』って。実感は全然湧かなかったです」
2018~20年に米名門演劇学校への留学など、着実に舞台での表現を磨いてきた。賞は一つの到達点とも言えるが、「自分はすっごく不器用なので」とぽつり。それでも小さくうなずき、喜びをかみ締める。
「賞という形で分かりやすく人に認められるような経験が、自分の人生ではなかったので。歴史ある賞を頂けたのは、今まで出会った方たちや舞台でご一緒した方々、ファンの皆さんの力や支えがあったから。すごく感謝しています」
昨年出演した「La Mere 母」「Le Fils 息子」での芝居が高く評価された。「―息子」は、21年初演で父・健一と初共演し、親子役を演じた特別な作品でもある。
「自分の人生を懸けて一生懸命やっていた作品なので、うれしいですね。受賞の報告は自分からする前に、父から連絡がありました。すごく喜んでいました」
愛によって息子を救おうとする父親の物語。両親の離婚で傷ついた17歳の少年ニコラを好演したが、どこか通じるものを感じていた。
「ニコラが抱える家庭環境は自分と似ているものがあったし、台本を読んだ時から『気持ちがすっごく分かるな』って。父と一緒に住んでいる時や、これまで実際に言うことはできなかった言葉も、舞台の力を借りて、ニコラとして言えた感覚もあります」
そう言うと、少し遠くを見つめ、「でも楽だったかなあ…。(親子役として)似せる必要がないから。だって親子なんだもん」。父と子。特別な関係の2人だからこそ、対峙(たいじ)した時にさまざまな感情が駆け巡った。
「父はすごい俳優だけど、尊敬してマネをしてしまったら一生超えられない気がしている。勝ち負けとかそういうことでは全くないけど、見上げた瞬間にずっと見上げてしまうのかなって」
6、7日に舞台「消失」の大阪公演を控える。
「演出の河原雅彦さんの作品は10作以上見てきて、いつか演出していただきたいと思っていたので光栄です。今まで翻訳劇しか出演したことがなかったので、日本の戯曲に挑戦するのは初めて。海外で学んできたことや、培ってきたことが全然通用しないような世界観もあり、日々勉強ですね」
舞台に立つ時、演じている感覚はない。「この役はこうだからとか、こういう考えだからこういう動きをする、ってことを捨て去りたくて。その人になるってことだと思うんです」
7秒ほど沈黙した後、「でも、本当にうまくならないなって思いますよ」。芝居への飽くなき探究心を語った。=後編に続く=(奥津 友希乃)
◆岡本 圭人(おかもと・けいと)1993年4月1日、東京都生まれ。31歳。2006年事務所入所。07年11月「Hey!Say!JUMP」としてCDデビュー。11年TBS系「3年B組金八先生ファイナル」でドラマ初出演。21年グループ脱退、俳優に専念。同年「Le Fils 息子」で舞台単独初主演。今年は舞台「オイディプス王」「反乱のボヤージュ」などの出演を控える。血液型O。