プロフィギュアスケーター羽生結弦さん(30)の単独インタビュー第4回。2022年7月のプロ転向後、2時間半のアイスショーを一人で演じ上げるという、前例のない挑戦を続けている。「Yuzuru Hanyu ICE STORY 3rd “Echoes of Life” TOUR」は千葉公演(7、9日・ららアリーナ東京ベイ)が千秋楽。体と対話し練習方法を研究しながら、持久力と瞬発力が並び立つ体作りに励んでいる。マシントレーニングに着手し、ダンスのレッスンも新たに取り入れた。尽きない向上心とともに、進化の途中を歩んでいる。(取材・構成=高木 恵)
2時間半を滑るためのスタミナづくりと、フィギュアスケートならではの瞬発系の動きを両立させるトレーニングは、大変な作業だ。
「瞬発は瞬発で練習しなきゃいけないし、遅筋【注1】に関しては通し練習をどれだけやれるかによるんです。別個で考えて練習をするしかないなといつも思っています。難易度の高いジャンプに対しては難易度の高いジャンプのためのアプローチをして。あとは2時間強滑らなきゃいけない体力と、靴ひもを結ぶっていうことの握力も必要なので」
演目ごとに衣装を変える。そのたびに靴を脱ぐ。スケート靴のひもは非常に強く結ぶ必要がある。アンコールを含む15曲。滑走以外にも、体力が削られる場面は多い。
「もうずーっと引っ張り続けているので。(3演目目の)『Utai』とかもそうですけど、あれだけずっと(振り付けで)手を張っていると、腕の筋肉がなくなってくるんです。ジャンプももちろん握力が必要だし。だから握力とかも、やりながらついてきているっていう感じですかね。バーベルとか持ってます、最近。デッドリフトとか、ハイクリーンとかはしています」
体と対話し、研究を重ねながら、マシン系のトレーニングも新たに始めた。
「それはやっぱり、どれだけ疲れていても出力が高い状態を保てるようにと、あとは体の使い方がうまくいくようにということを意識してやっています」
競技者時代よりも体の状態はよい。今一番絞れているという。それも意図して絞ったものだ。「どういう狙いで?」。即答だった。
「うまくなりたいだけです。うまくなるためにトレーニングを続けていると、絞れるよねっていう。余分なものは排除されたかなっていう感じはします。ヘルシンキの世界選手権(2017年)の時のバランスに近いかなと。あの時よりも筋量が増えたから、1・5キロぐらいかな、重いといえば重いんですけど。でも体脂肪のバランスは、あの頃のまま。自分の中では理想的だと思っています」
昨年12月に30歳になった。体力も技術も進化中。「こんなにもまだまだやれるんだな」。未来への可能性を感じている。向上心はとどまるところを知らない。昨年4月に「RE_PRAY」を完走後、これまで独学で習得してきたダンスのレッスンを取り入れた。
「(演出家の)MIKIKO先生にちょっと習いました。MIKIKO先生は元々、ヒップホップと、あとはジャズというか、コンテンポラリーの方もやっているので。いろいろですね。ヒップホップに関しては特に、基礎が全くなってないよね、っていう話をずっとしていたので。『基礎練したいです』って。いろいろ動画を送ってもらったりしながらやっていました」
クラシックから激しい曲調のポップスまで、自在に体を操る羽生さんが下す厳しい自己評価こそ、伸びしろの裏返しでもある。
「いや、こんなにできないんだなって思いました。本当に単純なことが全然できなくて。その単純なことに対して3か月ぐらいずっと練習して。ちょっとできるようになったかね、みたいな。でも、まだまだだなっていう感じはします」
【注1】遅筋は持久力、速筋は瞬発力に関係