ミラノ・コルティナ冬季五輪開幕まで6日であと1年。スキー・ジャンプ女子で2018年平昌五輪個人ノーマルヒル銅メダルの高梨沙羅(28)=クラレ=が、スポーツ報知の単独取材に応じた。出場すれば4度目となる五輪舞台は、13年世界選手権で日本女子初の表彰台を飾ったイタリア・バルディフィエメだ。22年北京大会混合団体の失格から3年。「変わった自分をお見せしたい」と原点の地での飛躍を誓った。日の丸飛行隊の金メダリストから全日本スキー連盟の会長として迎える大舞台へ、原田雅彦氏(56)は熱い思いを語った。
特別な舞台へ。その思いを胸に、沙羅は飛び続けている。
「五輪という4年間を軸に過ごしてきて、ここまであっという間だなという感覚はあるけど(五輪に向け)準備は変わらない。目の前の課題に集中していきます」
ジャンプの五輪会場のイタリア・バルディフィエメは、当時16歳で立った13年世界選手権の開催地だ。
「(混合)団体戦で金メダル、個人戦では悔しさはありつつ、メダル(銀)という結果で終えることができた場所。(当時から)台は改修されているけど、またその場所に帰ることができたらいいな」
個人、団体ともに世界選手権で初めての表彰台。特に個人ノーマルヒルではサラ・ヘンドリクソン(米国)との“サラ対決”で注目を集めた。2・7点差で銀メダルとなった。
「彼女(サラ)は小さい頃から憧れの選手でした。一緒に戦うことができて、うれしかったし、すごく緊張したのを覚えています。でも、一番は悔しい気持ちがあります」
13年後の2026年。今年10月に29歳となり、五輪を迎える。
「感慨深さはあります。16歳で(メダルを取る)タイミングがあったのは幸せだし、そこでタイミングに恵まれなかったら、そういうこと(メダル獲得)もなかったですから」
出場すれば自身4度目の五輪。前回22年北京大会は個人で4位、混合団体で悔しい思いをした。1回目の103メートル大飛躍の後、無作為のスーツ検査で両太もも回りが規定より2センチ大きかったため失格となり、得点が無効になった。日本は2回目に8位から猛追したが、メダルに届かぬ4位。涙が頬を伝った。
「次の五輪は今までと同じようにはいかないと思っています。自分自身、北京五輪の失敗があるので(日の丸を背負う)責任は今まで以上に感じています。世界選手権やW杯など、他の大会で償えるものではないと思うので、五輪という舞台で、変わった自分をお見せできるパフォーマンスをしないといけない。北京五輪の失敗からどれだけの過程を積み上げてきたか、しっかりと見ていただく五輪にしたいです」
注目度が高い大会だからこそ、伝えたいこともある。
「ジャンプを続ける理由の一つは、応援してくださる方が楽しんでくれたり、ジャンプを見て驚いた様子を見ると、幸せな気持ちになるからです。SNSに競技とは関係ない部分を発信するのも、一つは競技への興味につなげられたらと思って。空を飛ぶ浮遊感、風を切る音…。そういうものを感じてもらえるジャンプを目指しているし、会場一体で楽しめる場をつくり上げたい」
26年五輪から女子の個人戦はノーマルヒルに加え、ラージヒルも種目に加わる。
「素直にうれしい。女子も種目が増えたことで飛べる機会も増えるし、大きい台を飛んでも(技術的に)問題ないと共通認識を得られた証し。女子ジャンプ界にとっても喜ばしいことです」
五輪プレシーズンの今季W杯は、個人でここまでトップ10が5度(1日現在)。飛型を重視し、テレマーク(着地姿勢)の課題に取り組んでいる。
「テレマークが上手な選手は、今季3位以内に入っている印象があります。私はテレマークが入らないという印象が(ジャッジで)ついているからテレマークを安定的に入れて印象を払拭(ふっしょく)したい。(今季は)メダルを取るのが難しい状況だけど、また(優勝した)あの感覚になれるよう、できる限りのことを尽くします」
五輪前哨戦の世界選手権(26日開幕、ノルウェー・トロンハイム)に挑む。
「納得ができるジャンプを2本そろえられるように。目の前の課題を克服し、五輪に向かえたら」
思い出の地で輝くために、沙羅はジャンプと向き合う。(宮下 京香)
◆沙羅の五輪への道 ジャンプの五輪代表出場枠は男女ともに最大4枠。24~25、25~26年シーズンのW杯、サマーGPまたは世界選手権で、〈1〉8位以内を1回以上、〈2〉10位以内を2回以上、〈3〉15位以内を3回以上、〈4〉26年1月19日時点での25~26年シーズンのW杯ランキング上位者が選出される。条件をクリアしている沙羅は、基準日にW杯ランキングが日本勢上位なら4度目の五輪代表の資格を得る。
◆沙羅と五輪
▽14年ソチ(ロシア)
17歳で初出場し、個人ノーマルヒル(NH)4位。
▽18年平昌(韓国) 個人NHで103.5メートル、103.5メートルをそろえ、同種目の日本勢初の表彰台となる銅メダル。
▽22年北京 個人NHは2大会連続のメダルに届かぬ4位に涙。新種目の混合団体(佐藤幸椰、伊藤有希、小林陵侑)では1回目に103メートルの飛躍後、無作為のスーツ検査で両太もも回りが規定より2センチ大きかったため失格となり、得点が無効に。2回目は98.5メートルを飛び、日本は8位から4位と挽回したものの惜しくもメダルに届かず、顔を覆い、涙を流した。
◆ミラノ五輪アラカルト
▼会期 五輪は26年2月6~22日。パラリンピックは3月6~15日。
▼開催地 ロンバルディア州、ヴェネト州、トレント県とボルザーノ県の4地域2万2000平方キロメートルの冬季五輪史上、最も広範囲に及ぶ大会になる。
▼開閉会式 開会式はACミランやインテルのホーム、スタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ(通称、サン・シーロ)。閉会式は世界遺産のベローナ市街にある古代ローマ時代の円形闘技場アレーナ・ディ・ヴェローナ。
▼イタリアでの冬季五輪 3度目。56年コルティナダンペッツォ大会から70年ぶり、2006年トリノ大会から20年ぶり。
▼参加選手・メダル 約2900人が参加見込み。16競技合計で114組のメダルが誕生する。
▼男女比 女子種目が増え、最も男女比の均衡が取れた冬季五輪となり、女子の数は全体の47%に。出場枠は2900。うち女子が1362で、男子が1538。
▼チケット価格 五輪は開会式が260ユーロ(約4万円)~2026ユーロ(約33万円)。最高が閉会式A席の2900ユーロ(約47万円)。競技の最高額はアイスホッケー男子決勝A席で1400ユーロ(約23万円)。フィギュアスケートの最高はエキシビションで1200ユーロ(約19万円)と設定された。五輪は6日からパラは3月に販売。
◆高梨 沙羅(たかなし・さら)1996年10月8日、北海道・上川町生まれ。28歳。小学2年で競技を始め、2012年W杯蔵王大会で日本女子初制覇。上川中、グレースマウンテンインターナショナル、日体大を卒業。世界選手権は11年から出場し、混合団体で13年金、15、17年銅、個人NHで13年銀、17、21年銅。同LHで21年銀。昨季はW杯未勝利で個人総合9位。W杯歴代最多通算63勝、116度の表彰台。趣味はカメラ。152センチ。