中村福之助(27)が松竹創業百三十周年「三月花形歌舞伎」(京都・南座、3月2日~23日)に出演する。平成生まれの若手歌舞伎俳優が古典に挑む本公演で主要メンバーに選ばれた福之助は、熱い思いをたぎらせている。
8代目中村芝翫を父、三田寛子を母に持ち、兄は橋之助、弟は歌之助。三兄弟の真ん中である福之助は「歌舞伎はどうしても長男が跡を継ぎますし、長男と次男では全然立場が違うっていうのは自覚もしています。だけど、父も次男だし、次男だからといって限界があるわけではない。今回のメンバー(中村壱太郎、中村米吉、中村虎之介)も僕以外はみんな長男ですから、そこに入れたことはうれしいです」と瞳に炎を宿している。
昔から、父に言われてきた言葉がある。「新雪を踏みならして歩くのが橋之助だ。その後ろを通ったらお前は走れる。けれど、違うところに行けばもしかしたら雪が積もっていない地面を走れるかもしれない。お前が『ここしかない』と思って橋之助について行っても結局橋之助の後ろなんだよ」
だから、福之助は「自分の道を行く」と決めている。根底にあるのは、兄への対抗心と尊敬だ。若手歌舞伎俳優の登竜門「新春浅草歌舞伎」では座頭を勤める橋之助。「橋之助が簡単に追い抜かせるような長男だったら、僕も早々に追い抜いて、余裕かましてると思うんですけど、やっぱり兄が上を走ってくれてるので、僕も走り続けられるのだと思う」
今回、三月花形歌舞伎のメンバーに選ばれた福之助。「僕はずっと花形を見ていて、僕を呼んでくれたらもっと頑張るのにって思ってた。だからこそ、選ばれてうれしいという気持ちはここまでで、芝居が始まったら、皆様に、『福之助ここにあり』っていうところを見せなきゃいけないと思っています」
松プロ「妹背山婦女庭訓」で漁師鱶七実は金輪五郎今国、「於染久松色讀販」で船頭白蔵、桜プロ「伊勢音頭恋寝刃」で料理人喜助を演じる。鱶七と喜助は父から教わる。「鱶七は特に古典のど真ん中のお役。近年は僕はあまり古典には出ていなかったので、こういう役をいただけて、今まで自分がやってきた役の延長線上にあるお役なので、ここでやれなきゃ駄目だっていう自分への期待と、楽しみな気持ちでいっぱいです」
それでも、うれしさの中ににじませるのは悔しさだ。「今回は僕だけ書き出し(主役)に名前がない。弟も書き出しをやったことがあるんですが、僕はまだない。そこにこだわりがありますから、今回は正直めちゃくちゃ悔しいです。いつかはそこで役をできるような役者にならなきゃいけない。先のことを考えてやらないと、先はないですからね」。もがく27歳が南座で、ありったけの今をぶつける。(瀬戸 花音)
〇…「猿若祭二月大歌舞伎」の昼の部「きらら浮世伝」にも出演している福之助。親子4人で共演している。「僕はあまりあこがれている人というのはいないのですが、結局憧れといったら勘三郎の叔父なのかなと。『勘三郎の叔父が生きてたら怒られていたな』とは思いたくない。『これを見せられなくて悔しいな』と思えるように頑張っていきたいです」と気持ちを込めて滝沢馬琴を演じている。
◆中村 福之助(なかむら・ふくのすけ)1997年11月13日、東京都生まれ。27歳。本名中村宗生。00年9月、歌舞伎座「京鹿子娘道成寺」の所化と「菊晴勢若駒」の春駒の童で本名の中村宗生を名乗って初舞台。16年、3代目中村福之助を襲名。屋号成駒屋。