2016年以来のリーグ優勝を狙う鹿島の鬼木達・新監督(50)が10日までにインタビューに応じ、14日に開幕するJ1新シーズンへの意気込みを語った。昨季まで指揮した川崎で7冠を獲得し、常勝軍団復活の使命を託されたクラブOBの名将は「鹿島らしさ復活」「技術で圧倒」「魅了して勝つ」の“鹿島改革3か条”を掲げ、チーム作りに着手している。鹿島は15日の湘南戦(レモンS)で新体制初陣を迎える。(取材・構成=岡島 智哉)
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鹿島はどう変わるべきか。復権に必要なことは何か。チーム始動から約1か月。「タイトルから遠ざかり、基準がぼやけてきている。自分と選手で築いていく」と意気込む鬼木監督の指導指針は、鮮明になってきた。
【一、鹿島らしさの復活】
ある日のミーティング。指揮官は「鹿島らしさって何だと思う?」と選手たちに尋ねた。
ある選手は「サポーターとの一体感」、ある選手は「選手とスタッフの結ぶつき」と語り、「ずる賢さ」という意見も飛んだ。指揮官はうなずいた上で「自分は『強さ』だと思っている」と語ったという。
「球際などの戦う部分だったり、メンタル的な強さだったり。勝利に対する執着心もそう。鹿島に帰ってきて、この『らしさ』も足りていないなと感じました」
93年、J初年度に高卒で鹿島入り。当時のチームの勝利にこだわる姿勢は衝撃的だった。「あれがなかったら、今の指導者としての自分はない」と言い切る。
「ジーコさん【注1】はレクリエーションゲームでも負けたらめちゃくちゃ怒る。ジョルジーニョ【注2】からは、負けてる時に歩いてCKを蹴りに行ったらどなられた。1つひとつの勝利へのこだわりが、鹿島をタイトルに導いてきたと思う。昔に戻ろうってことではないが、そこはみんなで取り組んでいきたい」
【二、技術で圧倒】
始動日の練習から、いきなり技術を磨くパスの基本メニュー【注3】が組み込まれた。
「どれだけ(パスが乱れて)コーンにボールをぶつけてるんだって思いましたけど(笑)、意識の部分で変わってきています。選手にも『うまくなってきている』って話をしています。本当にそう思ってますから。まだまだですけどね(笑)」
7冠を獲得した川崎での経験から、個々の技術を磨くことでチーム力が向上することを確信している。
「ここに来てからも『もったいないな』って思うことが多かった。なぜ技術が必要か、できたらどうなるかを伝えました。いきなりうまくはならない。でもコツやキッカケをつかめば、ボールがいきなり止まって、止めるとこうなるのか、見えるとこうなるのか、って。自信がつけば、手をつけられない状態になる選手もいるかもしれません。選手の姿勢は素晴らしいです」
【三、魅了して勝つ】
必勝祈願で鹿島神宮に奉納した絵馬には「魅了して勝つ!」と書き記した。
「魅了というのは、自分の中で軽くない言葉。むしろ、相当努力しないとその領域にたどり着けない。そういうメッセージも込めています」
川崎では攻撃力でJリーグを席巻した。鹿島を離れ、川崎で得た知見の1つが「魅了」の追求だった。
「個人が伸びない限り、チームは大きくなれない。個人が伸びれば、技術的な部分でも、フィジカルの部分でも魅了できる。当然勝つ確率も上がる。勝負事なので勝てる時も勝てない時もあるが、1年通してやっていけば、必ず優勝にたどり着くと信じています。見る人を巻き込み、応援する人に誇りに思ってもらえる試合をやっていきたい」
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チームの完成度は、指揮官いわく「40~50%ぐらい」。一方で「選手の頑張りは100~120%ですね」と胸を張る。
国内8季無冠のチームに、その間、他クラブで7冠を獲得した男が還(かえ)ってきた。緊張感は「めちゃくちゃあります」、使命感は「半端ないです」と笑う指揮官に対する、サポーターの期待は高い。原点回帰と技術革新、そして見る者を魅了する姿勢。鹿島が新指揮官の下で再出発を図る。
◆鬼木 達(おにき・とおる)1974年4月20日、千葉・船橋市生まれ。50歳。93年のJ初年度に市船橋高から鹿島入り。6年間在籍し、通算27試合1得点。2006年に川崎で現役を引退し、指導者転身。川崎で育成年代やトップチームコーチなどを歴任し、17年の監督就任後にリーグV4回(17、18、20、21年)、ルヴァン杯V1回(19年)、天皇杯V2回(20、23年度)。今季から26年ぶりに鹿島復帰。愛称は鬼さん。好きな色は赤。
【注1】元ブラジル代表MF、元日本代表監督、現クラブアドバイザー。選手として93~94年途中まで在籍。
【注2】元ブラジル代表DF。95~98年在籍。
【注3】川崎監督時代から行ってきたパス練習。通称トメルケル。四方からのボールを正確に止め、2タッチ目で蹴る動作を反復する。