『新井の言葉』として、カープの新井貴浩監督のポジティブな言葉と、その真意を受け取った選手との絆から、チームの強さの秘密を深掘りします。2回目は、主に代走で活躍する足のスペシャリスト羽月隆太郎選手です。
新井カープが誇る足のスペシャリスト・羽月隆太郎。リーグ2位タイの11盗塁をマークし(9月10日時点)、機動力野球をけん引します。
■カープ 羽月隆太郎選手
「ここ、多分代走来るだろうなとかは、大体はもう予想はできてますね。」
試合終盤、勝負を分ける場面での起用が多い羽月。そんな羽月を奮い立たせる新井監督の言葉とは。
■カープ 羽月隆太郎選手
「失敗した次の日とか、走塁練習していたら近くに来てくださって、『どんどんもっと攻めろ』みたいな。アウトになっても、こっちが行かせているから、『どんどん行け』みたいな、話してくれますね。」
羽月を奮い立たせる指揮官の言葉には、こんな思いが込められていました。
■カープ 新井貴浩監督
「彼が行くところって、終盤の僅差の代走で、相手も警戒してくる中、それをかいくぐって勇気を持ってスタートを切らないといけないという、本当に極限のところで行かされるので、毎回毎回震えていると思うんですよね。こっちからしたら、羽月を代走に出してアウトになったら、もうしょうがないと思っているんだから。スタートを切ってくれと、とにかく。スタートを切れませんでしたじゃなしに、切ってくれ。結果アウトになろうが、それは自分の責任だからっていう風には伝えているんですけどね。」
勝負所での出場に、相手の厳しいマークはつきもの。ときに弱気になる羽月を後押しするのが、指揮官の言葉でした。
■カープ 羽月隆太郎選手
「失敗が続いた時って、次アウトになったらとか、ちょっとでもよぎるんで。弱気な気持ちがグラウンドに出ちゃうんですけど、そういう話をいただけると大丈夫だって、逆にもっと勝負してやろう、みたいに思いますね。」
そんな羽月の「勇気」で勝利を決めた試合がありました。7月の阪神戦、同点の8回で代走に起用されます。ここで2盗・3盗を決め、さらにワイルドピッチでホームイン。会心の走りで勝利に貢献した羽月。代走の役割に、ある美学があります。
■カープ 羽月隆太郎選手
「僕の仕事は盗塁って思われがちなんすけど、じゃなくて、ホームに還ることを優先して僕は選んでいるんで、僕の100点っていうのは、いかに自分に集中させて、バッターをおろそかになってもらって、そこをバッターが仕留めてくれて、ホームまで走るっていう、ホームまでが僕の仕事なんで。」
塁上でプレッシャーをかけ、バッター有利の状況を作る。数字に表れない貢献に、指揮官も信頼を寄せます。
■カープ 新井貴浩監督
「攻めてくれるのは本当に評価してますし、なかなか厳しい、本当に厳しいところなんだけど、今うちのチームでは、そこの場面を任せられるのは、彼しかいないと思っていますので。チームにとって必要な選手だと思います。」
シーズン終盤のしびれる接戦が続く中、得点の選択肢を増やす羽月の「足」は、新井カープを支えています。
■カープ 羽月隆太郎選手
「1番は優勝して、監督を胴上げしたいという思いがみんな強いと思うんで。みんなその気持ちだと思うんで。1番は優勝に向けて自分がどう動いたらいいのかっていうのを1番に考えて、練習からやっていって、その中で緊迫した場面で、1番勝敗がつくとこで行くと思うんで、そこで本当に僕の全ての力を出したいなって思います。」
羽月隆太郎選手を支える「新井の言葉」は、『もっと攻めろ』でした。背中を押す非常にシンプルな言葉でした。守備と走塁には「スランプがない」と言われますが、これまで話を聞いてきた多くの選手は、やはり「ある」と言います。失敗したら気持ちが少し弱くなり、体が動かなくなることがあるそうです。
盗塁はスタートの一歩で、その一歩が攻めに行けるかどうかが大切とのことでした。また、羽月選手は「ホームにかえるまでが僕の仕事」と話していました。歴代のいわゆる走塁のスペシャリストの選手たちも、全く同じことを言われています。「代走稼業」の誇りが言葉に詰まっているよう感じられます。
今シーズンの羽月選手の盗塁成功率は61.1%で、盗塁ランキング上位の中で見ると成功率は高くありませんが、非常に警戒される代走であることが分かります。ミリ単位、コンマ何秒の世界の勝負があり、走塁・盗塁の世界ではよく言われますが、力勝負の走力で勝つために、普段の準備がものを言います。
カープOBの池谷公二郎さんは「ピッチャーの立場からすると、大事な場面で出てきて走るので、牽制しなきゃいけない、クイックモーションで投げないといけない。」など投手のやることが増えると言います。それが、打者への集中力を乱すことにつながるそうです。今後も、羽月選手の走塁に注目です。
【2024年9月10日 広島テレビ「テレビ派」で放送】