13年前、飲酒運転の車にはねられ、一人の高校生が亡くなりました。「これ以上、飲酒運転による不幸を増やしたくない。」同級生の死を胸に警察の世界に飛び込んだ男性の思いに迫ります。
2024年4月、新人警察官145人が広島県警察学校に入校しました。学年代表として任命されたのは、佐々木翔太巡査です。
■佐々木翔太巡査
「県民をしっかり守っていくということを、目標に頑張っていきたいと思っております。」
佐々木さんは29歳。サラリーマンから転職し、警察官の制服に袖を通しました。きっかけは、13年前に起きた交通事故でした。
佐々木さんの高校時代の同級生三浦伊織さんは2年生のとき、クラブ活動を終え、自転車で帰宅していたところ、飲酒運転の車にはねられ、亡くなりました。佐々木さんは友人の死を、しばらく受け入れられませんでした。
結婚し子どもを授かって感じたのは、飲酒運転による不幸をなくしたいという思い。警察官の試験に3度挑戦して合格を果たしました。
5月。新人警察官ひとりひとりに拳銃が手渡されました。佐々木さんも警察官としての責任と自覚を感じて、一段と気を引き締めます。
■佐々木翔太巡査
「(銃を持ってみて)ずっしり重たいなというのが最初にきて、学校長に「頼むぞ」と言われ、すごく熱い気持ちになりました。1か月経ってみて、色んなことをやってきて、警察官としての教養を学んでいく中で、自分自身まだまだ警察官として、足りない部分が多いなと思っていた中での拳銃貸与だったので、今後もより一層勉学に励んで、県民を守れるようにやっていきたいなと思っています。」
7月。佐々木さんは、警察学校に来た三浦伊織くんの母・由美子さんと対面しました。由美子さんは伊織くんの事故後、飲酒運転をなくすため講演を続けています。語るのは、事故の悲惨さと残された家族の悲しみです。
■三浦伊織くんの母・由美子さん(講演)
「真っ二つに折られた自転車を見られて、皆さんはどんな感情を持ったでしょうか。どんな言葉で語るよりも、伝わる思いがあるのではないかと思っています。」
さらに、飲酒運転に対する罰則の条例を求めて、市に署名を提出するなど、飲酒運転をなくすための活動を続けています。
突然奪われた友人との高校生活。佐々木さんは、伊織君の母・由美子さんに当時の心境を話しました。
■佐々木翔太巡査
「クラスが違ったんですけど、部活が、自転車競技部とサッカー部っていうので、部室も近くて、話したりはしてたので。亡くなられたときは本当にびっくりというか、衝撃的な出来事だったので。私の人生を思い返す中でも、一つ大きな出来事だったかなと思います。」
そして由美子さんに、佐々木さんの家族について話をしました。
■佐々木翔太巡査
「入校前に生まれて4ヶ月になります。」
■三浦伊織くんの母・由美子さん
「寂しいですね。離れるのもね。」
■佐々木翔太巡査
「土日に帰るので、成長がすごい楽しみで、今頑張ってます。」
この日、由美子さんは、飲酒運転の被害者として、若い警察官に語ります。
■三浦伊織くんの母・由美子さん(講演)
「なぜ、伊織が死ななくてはならなかったのか。なぜ、加害者が生きているのか。なぜ、こんなにも苦しいのかわからず、頭の中がぐちゃぐちゃになりました。」
この講演で、由美子さんが警察官に伝えたかったことは…
■三浦伊織くんの母・由美子さん(講演)
「飲酒運転事故が起こって、被害者が生まれたとしても、警察が関わる範囲はとても限られていて。最初の段階がほとんどなので、その後何があるのか、どうして飲酒運転がいけないのか、というところを今一度感じて欲しかったです。」
そして、息子の同級生と出会って感じたことは…
■三浦伊織くんの母・由美子さん
「(佐々木さんには)幸せになってほしいなっていうところも、(子供に)成長してほしいなっていうところもあるんですけど、やっぱりどうしても考える部分は、親としてあって。結婚して子供が生まれて、孫が生まれてっていうところで。本来ならば、私達家族もそういう幸せがあって、みんなが集まって笑顔が見られたのではないかと考えると、やっぱり悲しいのは悲しいですし。でも、そこだけではない部分を、今まで皆さんにいただいてきたので。そういう部分もあって、一つの喜びっていうところで自分では捉えています。」
卒業式。卒業生代表として臨む佐々木さんの姿がありました。
■佐々木翔太巡査
「答辞を読んでいるときに、つらかった思い出とか、楽しかった思い出、いろんな思いがこみ上げてきました。」
式の後には、すぐ配属先へ向かいました。佐々木さんは、広島東署へ配属されました。
■佐々木翔太巡査
「広島県警察学校から、広島東警察署への配置替えを命ぜられました。」
■広島東署 林俊晴署長
「卒業おめでとうございます。覚悟をしっかりと持って、1つ1つの困難に立ち向かって、警察官として大きく成長して頂けたらと思っております。」
■佐々木翔太巡査
「伊織くんにはですね、君の思いっていうものを知ってる自分たちが、平和な社会を守っていくよということを伝えてあげたいと思います。住民の方々に身近なところから声をかけていき、飲酒運転というものを絶対なくしていきたいなと思っています。」
新人警察官はここから4か月、交番勤務など第一線での経験を積みます。伊織くんの死を胸に、一人でも多く命を救うため、佐々木さんは警察官としての第一歩を踏み出しました。
【テレビ派 2024年10月16日放送】